再会した幼なじみが、怖い不良になっていた

「別に、知り合いってほどじゃない」

 先日、田中がこの男にカツアゲされたこと。助けたせいで俺が逆恨みされたことを話した。
 熊澤は黙って聞いていた。
 
「ああ、こんなことになるなんて……」

 自分の額に触れながら、俺は独り言を漏れらした。

 その声が弱々しくて、余計に情けなくなる。
 
 俺たちの間に沈黙が流れた。

「自首……するのか?」

 そう尋ねる熊澤の目は表情が読めない。

 警察に届けなければならない。わざとでなくても人を死なせてしまったのだから。

 だけどそんなことをしたら……。
 
 俺の人生は今日、ここで、――終わりだ。
 
 俺はただ、ぜえぜえと呼吸を繰り返した。
 両手足が小刻みに震える。
 
「しないなら、手伝う」

「え?」

 意味がわからなくて熊澤の顔を見る。

「片付けるのを手伝ってやるって言ってんだ。一人じゃ無理だ」

 片付けるって……?
 
「それとも自首するつもりなのか?」

「いや……」

 俺には警察へ行くなんてできない。両親がどれほどがっかりすることか。
 積み上げてきたものが、全部なくなるなんて嫌だった。

「だったらさっさとやっちまおう」
 
 そう言うと、熊澤は遺体を肩へ担ぎ上げた。
 
「一体、どうするんだ?」

「俺に考えがある」

 辺りを警戒しながら、園内の暗い道を歩く。俺は黙って後に続いた。
 熊澤は公園の北側へ向かっているようだった。

 着いたのは、雑木林だ。
 
 公園内とは違い、管理が行き届いていない。
 うっそうと生い茂った草木で荒れ果て、大量の粗大ごみが捨てられている。
 テレビや冷蔵庫、古びたタイヤ、それからスクーター。
 普段から人目のない場所なのだろう。
 
「スマホで懐中電灯出してくれないか? 暗くて足元が見えねぇ」

「あ、……うん」
 
 俺はスマホでライトをつけて、暗い藪を照らした。
 
 熊澤は林の中を進んでいく。
 
 その奥には朽ち果てた小屋があった。

 閉ざされた雨戸や玄関の戸が劣化して外れている。
 
 その中に足を踏み入れて、熊澤は土間に遺体を下ろした。

「よっと……」
 
 置いた弾みに見開いたままの男の目がこちらを向いたように見えて、俺は「ひっ」と息を漏らした。
 
 熊澤はポケットからスマホを出してライトを点けた。

 土足のまま座敷に上がり、押し入れを開ける。
 
 中には古びた布団や段ボールが詰まっていた。
 その奥から、熊澤はロープを引っ張り出す。
 
「お前は外で誰か来ないか見張っていてくれ」

 言われた通りに、俺は廃墟の外へ出た。
 周りには人の気配なんてなかった。

 あの死体をどうするつもりなんだろう。

 しばらくして熊澤が出てきた。

「とりあえず一晩ここに置いておこう」

「一晩って、そのあとどうするんだ?」

 こんな場所にずっと置いていたら、いずれ見つかるだろう。
 だからと言ってどうすればいいかなんて、俺にはわからないけれど。
 
「俺が何とかする」

「何とかって……どうするんだよ?」

 熊澤は長い前髪を、ふうっと吐いた息で揺らした。

「明日の昼間、俺が穴を掘って埋める」

「じゃあ俺も」

 手伝うと言うより先に熊澤がフンと鼻を鳴らした。
 
「やめとけ。俺は年中授業をサボってるが、あんたが学校を休めばそれだけで怪しまれるぞ」

 確かにそうかもしれない。
 
「あんたは明日も普段通りに学校へ行け。とにかく数日は、絶対にいつもと違う行動を取るな」
 
 熊澤の言葉には迷いがなかった。
 
「誰かに様子が変だと気づかれたら、終わりだと思え。いいな?」
 
「うん……」