再会した幼なじみが、怖い不良になっていた

 警察署の前には制服のお巡りさんが立っていた。

 息をぜーぜーさせながら、俺は「すみません」と声をかけた。
 
「雑木林の死体の件で、話したいことがあるんです」

 警官は驚いて、すぐに俺を刑事課へ連れていってくれた。

 小さな部屋に通される。少し待っていると、スーツ姿の男性が入ってきた。

 学校へ来ていたあの刑事だ。

 彼はゆっくりと俺の向かいの椅子に座る。

 改めて名前と住所を聞かれた。

「君とは学校の職員室で何度か会っているよね」

「はい。……あの、実は岡部という男を殺したのは、……俺なんです」

 まず第一に言いたいことを口にした。
 家族の顔が過らないはずはない。ごめんなさいと思う。

 けれど俺は熊澤を助けずにいられない。

 刑事は驚きもせずにじっと俺の目を見ていた。

「殺したというのはいつ、どうやって?」

 俺は岡部と知り合ったきっかけから話をした。
 田中が岡部にカツアゲをされているのをたまたま通りかかった俺が助けたのだ。
 だけど実際にはあのとき田中と岡部は特殊詐欺の関係で揉めていたのだろうけれど。
 数日後、夜道ですれ違った際に岡部は俺の顔を見て、因縁をつけてきた。
 怖くて交番に逃げ込もうとあの公園の階段を上がった。そのときにカバンを掴まれて、もみ合った拍子に突き飛ばしてしまった。

 そこまで一気に話した。刑事は時折頷きながら聞いていた。

「だから……俺が犯人です。俺を逮捕してください」

 俺は椅子から立ち上がって両手首を差し出す。
 目から涙が出て視界がぼやけた。

 もう俺の人生はここで終わりだ。

 いや、本当はあの岡部を殺した時点で終わっていたんだ。

 鼻をすすり、右手の甲で涙を払った。
 
 刑事はいつまで経っても椅子に座ったまま手錠を出さない。
 静かな表情で俺を見ている。
 
「……座りなさい。君を逮捕することはないよ」

 穏やかな声でそう言った。
 
「ど、どうしてですか?」
 
 俺は逮捕されない? 人を殺したのに……?

「そう興奮せず、落ち着いて聞いてくれ」

 ゆっくりとした口調で言われ、俺は椅子へ座り直した。
 
「今、君から聞いたことはすでに熊澤から聞いて知っているんだ」

 ドクンと胸が跳ねた。

「だったら、やっぱり俺を逮捕して熊澤を釈放してください」

「君はなにか誤解しているようだね」

 刑事は大きなため息をついた。

「確かに遺体の頭部には打撲の痕があった。だけど頭を打ったことと岡部の死は関係がないんだよ」

 思わず耳を疑った。
 この人は何を言っているのだろう。

「岡部は腹部を刃物で刺されて死んだんだ」

 ――腹部を、刃物で?
 
「う、うそ……。そんなはずは……」

 言いながらも思い出される。真っ赤な血で汚れた熊澤の白いTシャツ。

 ――まさか。

「君は岡部に追いかけられて逃げていたと熊澤が言っている。少なくとも、君が殺すつもりで岡部を突き落としたとは考えられない。現時点で君を傷害致死などの罪に問うのは難しい」

「でも、俺は救急車を呼ばずに……」

「君はスマホを出して助けを呼ぼうとしていたとも熊澤が証言しているよ。でもそうしなかったのはどうして?」

「それは……」

 俺は口ごもった。

「熊澤に止められたんだろう」

 それもまた事実だ。あのとき熊澤に「自首するのか?」と聞かれたのが全てもの始まりだった。

「で、でもっ」

「熊澤は気絶した岡部を廃墟へ運び、縛り上げて監禁した。翌日、腹を刺して殺害し、遺体を雑木林に埋めたんだ」

 熊澤は俺を助けたんじゃない。
 俺はたまたま、熊澤の目的に巻き込まれただけだというのか。

「そんなのおかしい。熊澤に岡部を殺す動機なんて……」

 言いながら、はっとした。
 熊澤の部屋にあった借用書。熊澤の父親と岡部の間には金銭トラブルがあったのだ。
 
「彼は父親を岡部に殺されたと思っている。だから復讐のために殺したと答えているよ」

「……そんなはずない」

 思わず呟く。

 熊澤は、父親が交通事故で死んだと言っていた。

 岡部に殺されたなんて、そんな話は一度も聞いたことがない。

 それなのに、どうして熊澤はそんなことを言ったんだ――?