再会した幼なじみが、怖い不良になっていた

 狭い部屋の中で俺はぼんやりと壁を見ていた。

 腹や背中が温かいような錯覚を感じる。

 バイクで二人乗りしたときの感覚が今でも残っている気がするのだ。
 俺の腹に回した慧人の腕、背中に寄りかかった慧人の重さ。

 あんなふうに慧人が俺に体を預けてくれたことが、嬉しかった。

 俺は一生忘れないだろう。

 慧人も楽しんでくれたはずだ。その証拠にバイクの免許を取ると言った。
 
 中古のバイクを一緒に探すと約束した。
 春になったら桜のトンネルへ行こうとも。

 だけど――もう、その約束を果たすことはできない。

 足音が近づいてくる。
 カチャと金属音がして、警官が独房のドアを開けた。

 ここは北川警察署の中にある留置場だ。

「立て。取調室へ移動する」

 昨日はかけられなかった手錠が、両手首にガチャンとかけられた。
 金属の感触がひやりとして不快だ。

 大した重さなんてないのに、自由を奪われた恐怖感からやたらずっしりと感じる。

 昨夜の続きが始まるのだ。

 取調室は、ドラマで見るような机と椅子しかない部屋だ。

「昨日も言ったように、岡部宏司を殺害したのは俺です。うちの押し入れはもう確認しました?」

「ああ。君の言った通り、血のついた包丁が見つかった。岡部の財布や衣類も一緒にね」

「そっか。よかった……」

 俺はほっと安堵のため息をついて、にやりと口元を歪めた。
 その様子を見た警官が顔をしかめる。

「なにがそんなに嬉しいんだ?」

「だって、もう隠さなくていいんですから。気が楽になりましたよ」

 もう慧人が罪を抱えて悩まなくていい。

 そう思うと、俺は嬉しかった。

 本当は、もっと早く慧人を解放してやればよかったんだ。
 俺一人で全部背負って、すぐに警察へ行けばよかった。

 それなのに俺は、あの夜のことを慧人と二人だけの秘密にした。

 そうしていれば、慧人との間に何か特別なものを持てる気がしたからだ。

 共犯者という形でもいい。
 あの夜を知っているのが俺たち二人だけなら、慧人との繋がりは消えない気がした。

 たった一度、慧人の救世主になって、すぐに去ればよかったものを。
 
 俺は、夢を見過ぎたんだ。

 そして結局、慧人を傷つけた。
 
『迷惑だ』
 
『俺はお前と友達になったことを後悔してる』

 あのときの慧人の顔が、頭に浮かぶ。

 きっと俺のことが嫌いになっただろう。
 そう思うと、胸が痛んだ。

 でも、それでいい。
 俺のことを嫌いになれば、もう俺のために苦しむこともないのだから。

 本当は、抱きしめてやりたかった。
 そして正直にすべてを話してやればよかったのかもしれない。

 だけど、本当のことを知ってもなお、慧人は俺を見捨てない気がした。
 あいつはそういう奴だ。
 だから俺が慧人を突き放した。

 思い返せば、最大の誤算は慧人が俺のことを覚えていたことだろう。
 
 俺はまたあいつと親しくなりたくなってしまった。

 ……だって好きだから。
 
 友達になってくれと言った。
 体育館の裏で一緒に昼休みを過ごした。
 
 バイクに乗せた。
 父親との思い出の場所にも連れて行った。

 一日でも長く一緒にいたいと願ってしまった。

 あのキラキラした瞳を近くで見ていたかったんだ。
 笑った顔も、照れた顔も、もっと近くで見ていたかった。
 
 その結果、慧人を苦しめた。

 俺は最低な人間だ。

 でも、もう終わりにできる。

 慧人は俺のことなんか忘れて普通の高校生に戻れる。

 俺がいなくても、ちゃんと笑って生きていけるだろう。

 それでいい。

 それが俺の願いだから。