再会した幼なじみが、怖い不良になっていた

 交差点で佐野と別れて、一人で歩き出したときだった。

「ごめんなさい……」

 暗い路地裏の方から声が聞こえた。

 屋根と屋根とが近い家々が並んだ奥にスナックの看板が光る。
 その店の前で男二人が何か口論しているらしかった。
 
 何か揉めているらしい。喧嘩だろうか?
 そのまま通り過ぎようと思った。
 
「し、新堂くん……」

 胸倉を掴まれている男が俺の名前を口にした。

「……?」
 
 よく見ると、そいつはクラスメイトの田中だった。
 相手は誰だかわからない。
 
「た、たすけて」

 田中は俺に向かってそう呟いた。

 正直、関わりたくないという気持ちが真っ先に出た。
 けれど、田中はクラスメイトだ。

 見てしまった以上、放っておくこともできない。

 相手の男は派手な柄シャツに金のネックレス。長い前髪をワックスで後ろに撫でつけている。
 話が通じる相手ではなさそうだ。

 どうしよう……。
 
 一瞬逡巡したのち、俺は大きく息を吸い込んだ。

「おまわりさーん、こっちです!」

 通りに向かって大声で叫んだ。
 
 周囲の人々が足を止めて狭い路地裏を覗き込む。
 目の前の民家の窓も開いた。

「ちっ、逃げられると思うなよ!」

 田中の肩を突き飛ばし、男は去っていく。

「痛っ」
 
 田中はアスファルトに尻もちをついた。

「大丈夫かい、田中くん」
 
 俺は田中に駆け寄って手を差し出す。

「うん、なんとか」

 俺の手に掴まって、田中がゆっくりと立ち上がった。

「今の人とは知り合い?」

「ううん、歩いていたら急に呼び止められて。金出せって」

 少し意外に思った。
 田中は同じ特進科だが、真面目な優等生というタイプではない。
 要領がよく、教師の目を盗んで勉強をサボるのも上手い。
 
「今日に限って財布が空だったんだよ」
 
「……金持ってたら渡してたの?」

「命には代えられないだろ」
 
 田中は苦笑した。

「助けてくれてありがとう。新堂くんのおかげで命拾いしたよ」

「大げさだな」

 礼を言われるほどのことではない。

 俺たちは並んで歩道を歩く。

「ケガしてない?」

「うん、大丈夫」

 田中は小さい声で返事をした。
 そして黙って下を向いて歩く。さっきのことが余程ショックだったのだろう。
 
 俺はあえて何も話しかけなかった。
 しばらくして田中の方から口を開いた。
 
「なあ、俺がチンピラにカツアゲされたこと誰にも言わないでくれないか?」

 格好悪いからさ、と俺に向かって手を合わせる。

「ああ、言わないよ」

 そんな約束を取り交わして、俺たちは別れた。