再会した幼なじみが、怖い不良になっていた

 昼休み。体育館裏のいつもの場所に俺たちはいた。
 
 蝉の声が聞こえる。近くのケヤキの大木に止まって鳴いているのだろう。

「もうすぐ、夏休みだね」

 食べ終えた弁当箱の蓋を閉じながら俺は言った。
 
「ああ。何か楽しみな予定でもあるのか?」
 
「勉強ばっかりで楽しみなことなんてなにもないよ」

 塾の夏期講習に通って夏休みが終わってしまうかと思うと気が重い。
 
「俺もバイトぐらいしかやることがねぇ」

 熊澤はいちご牛乳の紙パックを吸った。

「いいじゃん、バイクが好きなんだから。夢中になれるものがあって羨ましいよ」
 
「まあな」
 
 彼は遠く校舎の方を眺めて、口を閉ざした。

 ん? 俺、何か変なこと言っちゃったか?

 正直、焦った。
 普段の俺はよく考えから話すのに、熊澤相手だとあまり気にせず思ったまま言葉を口にしてしまう。
 だから、傷つけたり嫌われたりすることを言ってしまったんじゃないかと心配になった。

 けれどそれが杞憂だとすぐにわかった。
 
 少しの沈黙の後、照れくさそうに熊澤が俺の目を見る。

「今度、乗せてやろうか」

「え? 乗せるって?」
 
「俺のバイクに、だよ」
 
 驚いた。

「豪くん、バイク持ってるの?」

「ああ、古いけどな。親父が乗ってたやつだし」
 
 親父のバイクというのは、つまり形見なのだろうか……?

 乗せるって二人乗りってことか? 熊澤と二人乗り?

 嬉しい。
 どうしてだろう。熊澤のことを知りたいし、一緒にいたいんだ。

 首を縦に振ろうとした瞬間。
 
『――生徒の呼び出しをします。2年A組新堂慧人さん。至急職員室まで』

 校内放送で名前を呼ばれた。

 一体、何の用だろう……。特に思い当たることはない。
 
 熊澤と目が合う。

 ――まさか、あの死体のことか?

 いや、まだそうと決まったわけじゃない。
 
「悪い、ちょっと行って来る」

 小走りで職員室へ行くと、担任の花田が俺を待ち構えていた。
 空き教室へ連れて行かれる。
 
 ドキドキと自分の鼓動が響いていた。

 普段は使われていない教室の中で向かい合って椅子に座ると、花田は少し言いにくそうに切り出した。
 
「新堂くん、ちょっと田中のことを聞きたいんだけどね」
 
「田中くんのこと、ですか……?」
 
 握り締めた手が、じっとりと汗で濡れる。
 
「君と田中はクラスメイトだし、君は生徒会長としてみんなに気を配っているだろう? だから君に聞きたいんだけど、最近、田中に変わったところはなかったか?」
 
 真っ先頭に浮かんだのはあの岡部にカツアゲをされていたことだ。
 だが、そのことを言うわけにはいかない。
 俺と岡部に接点があったことは誰にも知られてはならないから。
 
「……いえ、特には。そういえば今日、学校を休んでいますよね。田中くんに何かあったんですか?」

 とぼけて聞いてみた。

 そのとき、教室のドアを叩く音が聞こえた。

 先生が返事をすると、開いたドアの向こうに教頭先生が立っていた。

「悪いけど、刑事さんが来てるから、新堂くんいいかな?」

 手招きされて俺は立ち上がる。

 教頭の後ろには何日か前に学校へ来ていた刑事がいる。

 応接間に通された。居心地悪く、ソファーへ座る。

「生徒会長の新堂くんだよね。たびたびごめんね」

 刑事の口調は優しかった。

「君のクラスメイトの田中くんのことで少し聞きたいことがあるんだ」

 なんでしょうか、と俺は渇いた喉で返事をした。

「すぐにわかることだから言ってしまうと、田中くんは逮捕されたんだ」

「た、逮捕っ!? ……田中くんが?」

 狼狽したのは演技なんかじゃない。
 刑事たちは俺の目をじっと見ていた。

「高齢女性から多額の現金をだまし取った、特殊詐欺の受け子の容疑でね」

「受け子って……、まさか、そんな」

 刑事は岡部の写真を取り出して、こいつが指示役だったんだと言った。

 つまり、田中は岡部にカツアゲされていたんじゃなく、岡部と闇バイトで関わったあと、何か揉めていたということだ。

「求人サイトの高時給バイトに飛びついたら、闇バイトだった。個人情報を握られて、抜けられなくなる。最近はそうやって高校生が巻き込まれるケースも多いんだ」

 俺は床の一点を見つめ、返事をするのも忘れていた。