昼休み。体育館裏へ向かうことが、すっかり日課になっている。
いつもと同じ場所に熊澤が座っているのが見えた。
それだけでひどく安堵する。
「よう、お疲れ」
俺は努めて明るい声をかけた。
昨夜はうっかり泣いてしまったから、熊澤に元気な顔を見せたかったのだ。
熊澤は「おう」と手を上げて微笑む。
普段は強面の彼が俺にだけ見せるこの穏やかな表情を見ると、俺はたまらない気持ちになる。
にやけそうになるのを堪えて、わざと触れそうな距離に腰を下ろす。
「近いって」
熊澤もまんざらではなさそうに笑った。
弁当の蓋を開ける。今日はのり弁だ。
相変わらず食欲がないけど、これなら食べられる。
「昨日も眠れなかったのか?」
熊澤に聞かれてぎくりとした。
目の下のクマでバレたのだろう。
「まあね……」
昨日、学校に刑事が来たことは間違いなく俺たちにとって都合の悪いことだ。
熊澤もそう思っているに違いない。
ベッドに入ると、同じことばかり考えてしまう。
やっぱり今からでも警察に正直に話したほうがいいんじゃないか。
でもそんなことをしたら、熊澤も罪に問われてしまう。
思考は堂々巡りだ。
俺たちは何も喋らずに昼飯を食べた。
熊澤は炭酸ジュースのペットボトルをシュッと音を立てて開けて、一口飲んだ。
「そういやお前と連絡先交換してなかったな」
熊澤はあんパンを口に押し込んで、ポケットからスマホを取り出す。
連絡先を教えてもらえるなんて、正直嬉しい。
「う、うん……」
俺も弁当を置いて、スマホを出した。
QRを読み込むと、熊澤のアイコンが愛らしいテディベアで、思わず口元が緩んでしまった。
「なんだよ、お前くまちゃんかよ」
「似合ってるだろ」
似合うもんか。
熊澤はこういう可愛いものには興味がない人間だと思っていた。
食の好みも案外甘党だし、この男を知れば知るほど、意外だと感じることが多い。
「やっと笑ったな。いつでも連絡して来いよ」
熊澤の手が俺の顔へ伸ばされる。
そっと俺の頬へと触れた。
たったそれだけのことで、俺の胸はドクンと大きく脈打った。
熊澤の目は吸い込まれそうなほどきれいな色をしている。
昔からそうだ。手が温かいのも昔から。
俺はなんだか、気になっていたことを尋ねてみたいと思った。
やっぱり熊澤のことをもっと知りたいんだ。
「ねえ、豪くんは岡部を知っていたの?」
熊澤が目を見開く。
「どうしてそう思うんだ?」
俺は正直に、熊澤の父親が勤めていた運送会社の古いブログを見たことを伝えた。
「そうか、見たのか……」
熊澤は自分の額に触れて、短く息を吐く。
「ああ、俺は岡部を知っていたよ。あいつは本当にどうしようもない野郎なんだ」
父親から聞いた話では、職場でもトラブルを起こしてばかりだったらしい。
そのたびに、同僚だった父親が肩を持ってやったという。
「あの男と関わって不幸になる人間が何人もいたんだ。あんな奴のせいでお前の人生がめちゃくちゃになるなんて許せなかったんだ。だからあのとき……」
――遺体の処理を手伝った。
熊澤はひざにひじをついて、ぐしゃっと自分の髪を握った。
「そうだったんだ」
でもそれは最善の選択だったのだろうか。
そのせいで、俺たちは今こんなにも苦しんでいる。
もし遺体が見つかれば、どうなってしまうのか。
熊澤は何も言わずにしばらく黙って地面を見ていた。
いつもと同じ場所に熊澤が座っているのが見えた。
それだけでひどく安堵する。
「よう、お疲れ」
俺は努めて明るい声をかけた。
昨夜はうっかり泣いてしまったから、熊澤に元気な顔を見せたかったのだ。
熊澤は「おう」と手を上げて微笑む。
普段は強面の彼が俺にだけ見せるこの穏やかな表情を見ると、俺はたまらない気持ちになる。
にやけそうになるのを堪えて、わざと触れそうな距離に腰を下ろす。
「近いって」
熊澤もまんざらではなさそうに笑った。
弁当の蓋を開ける。今日はのり弁だ。
相変わらず食欲がないけど、これなら食べられる。
「昨日も眠れなかったのか?」
熊澤に聞かれてぎくりとした。
目の下のクマでバレたのだろう。
「まあね……」
昨日、学校に刑事が来たことは間違いなく俺たちにとって都合の悪いことだ。
熊澤もそう思っているに違いない。
ベッドに入ると、同じことばかり考えてしまう。
やっぱり今からでも警察に正直に話したほうがいいんじゃないか。
でもそんなことをしたら、熊澤も罪に問われてしまう。
思考は堂々巡りだ。
俺たちは何も喋らずに昼飯を食べた。
熊澤は炭酸ジュースのペットボトルをシュッと音を立てて開けて、一口飲んだ。
「そういやお前と連絡先交換してなかったな」
熊澤はあんパンを口に押し込んで、ポケットからスマホを取り出す。
連絡先を教えてもらえるなんて、正直嬉しい。
「う、うん……」
俺も弁当を置いて、スマホを出した。
QRを読み込むと、熊澤のアイコンが愛らしいテディベアで、思わず口元が緩んでしまった。
「なんだよ、お前くまちゃんかよ」
「似合ってるだろ」
似合うもんか。
熊澤はこういう可愛いものには興味がない人間だと思っていた。
食の好みも案外甘党だし、この男を知れば知るほど、意外だと感じることが多い。
「やっと笑ったな。いつでも連絡して来いよ」
熊澤の手が俺の顔へ伸ばされる。
そっと俺の頬へと触れた。
たったそれだけのことで、俺の胸はドクンと大きく脈打った。
熊澤の目は吸い込まれそうなほどきれいな色をしている。
昔からそうだ。手が温かいのも昔から。
俺はなんだか、気になっていたことを尋ねてみたいと思った。
やっぱり熊澤のことをもっと知りたいんだ。
「ねえ、豪くんは岡部を知っていたの?」
熊澤が目を見開く。
「どうしてそう思うんだ?」
俺は正直に、熊澤の父親が勤めていた運送会社の古いブログを見たことを伝えた。
「そうか、見たのか……」
熊澤は自分の額に触れて、短く息を吐く。
「ああ、俺は岡部を知っていたよ。あいつは本当にどうしようもない野郎なんだ」
父親から聞いた話では、職場でもトラブルを起こしてばかりだったらしい。
そのたびに、同僚だった父親が肩を持ってやったという。
「あの男と関わって不幸になる人間が何人もいたんだ。あんな奴のせいでお前の人生がめちゃくちゃになるなんて許せなかったんだ。だからあのとき……」
――遺体の処理を手伝った。
熊澤はひざにひじをついて、ぐしゃっと自分の髪を握った。
「そうだったんだ」
でもそれは最善の選択だったのだろうか。
そのせいで、俺たちは今こんなにも苦しんでいる。
もし遺体が見つかれば、どうなってしまうのか。
熊澤は何も言わずにしばらく黙って地面を見ていた。
