翌日の月曜日。
なんでもない一週間の始まりの朝。
伊緒さんと会える、最後の日。
伊緒さんは、俺の通う高校にいる拓巳と裕樹に会いに行ってくれた。
校門で待ち伏せしていると、二人が覇気のない顔で歩いてくるのが見えた。どうせ、昨日の夜遅くまでゲームしていたんだろう。
「近藤拓巳さんと、稲垣裕樹さんですね」
伊緒さんに声をかけられて、二人は狼狽えていた。他校の女子としゃべったことがない上に、伊緒さんが可愛かったせいだろう。
「誰だ? 裕樹の知り合い?」
「知らねーよ!」
「これ、拓巳さんにお返しします」
伊緒さんは拓巳に大きめサイズの封筒を渡した。そこには、俺が借りたゲームソフトが入っていた。
「え⁉︎ なんで、これ」
「藤牧倫也から伝言です。『返すのが遅くなってごめんな。リリカ、めちゃくちゃ可愛かった! ありがとう!』」
「えっ。えっ⁉︎」
拓巳の目線はソフトと伊緒さんの顔を五往復くらいした。
「裕樹さんへ。『俺が貸してる漫画、大事に取っとけよ。絶対売るなよ!』だそうです」
「えっ? ええっ⁉︎」
伊緒さんはさらに淡々と、二人への伝言を続ける。
「『二人とも、俺の入院中、何度も見舞いに来てくれてありがとう。お前らみたいないい奴と友達になれて、俺はすげー幸せ。二人とも大好きだよ。俺がまた会いに行くまでに早いとこ可愛い彼女作って、幸せになれよ!』です」
「えっ⁉︎ 待って、君、何者⁉︎ なんで倫也のことを知ってんの⁉︎」
伊緒さんはその問いには答えず、ペコっと頭を下げて二人の前から去った。
相変わらずクールな人だ。
二人は騒ぎながら、そんな伊緒さんをいつまでも見送っていた。
「ありがとう、伊緒さん」
「あんなにあっさりで良かったの?」
「あっさりしてたのは伊緒さんでしょ」
本音を言うと俺はもうちょっと二人との別れを惜しみたかった。
でもまあ、あのくらいの方が湿っぽくならずに済む。言いたかったことはちゃんと伝えられたし。
「いいよ。どうせ俺、生き返ったらまたあいつらと遊ぶから!」
「それもそう、だね」
伊緒さんは俺がすぐ生き返ると思っている。でも俺が本当に生き返るのはいつか遠い未来のことだ。また生まれ変われるかも、あいつらと友達になれるかどうかも分からないけど、その日を信じていよう。
「あなたの家から借りたゲーム機も返さなきゃね」
「それだけど……病院に持ってきてくれる?」
「あなたの病院に?」
「うん。だけど渡すのは俺じゃなくて、母さん。昨日の夜、倒れて入院したんだ」
「え……? 大丈夫なの?」
「ただの過労だって。面会時間は午後からだから、放課後にお願い」
「そう。分かった」
優しい伊緒さんは神妙な面持ちになって、ほんの少し歩くスピードを上げた。


