伊緒さんの首から上は別人になった。
灰士さんは伊緒さんの真っ黒に塗り固めらた殻にひびを入れ、内側にあった美しいものを見事に引き出したのだ。
でも、ケープを外すと伊緒さんはまた見習い魔女のような服装で、上下の釣り合いが取れていなかった。
灰士さんも残念に思ったのか、スマホを片手にこんな提案をする。
「せっかくだから、下も変えとく? 俺のダチが近くのアパレル店で働いてるから、君の画像送っていいならすぐコーディネートを考えてもらうけど」
「是非に、お願いします!」
俺は土下座の勢いで頭を下げた。
こうして次の目的地が自動的に決まった。
「またのご来店お待ちしております」
「ありがとうございました!」
お世話になった灰士さんの店を出て、次は灰士さんのお友達がいるというアパレル店へと向かう。
ワクワクと同時に、俺の胸はドキドキしていた。
灰士さん、腕が良すぎ。
隣を歩く伊緒さんが可愛すぎて、みんなに見せびらかしたい気分だ。
「さっさと終わらせたいわ。ウイッグ熱いし、目とか痒いし早く外したい」
「わー! ダメだよ伊緒さん! いじったらカラコン取れちゃう!」
中身はいつもの可愛くない伊緒さんなんだけどな。ギャップの寒暖差で風邪をひきそうだ。
灰士さんが指定した次の店は、灰士さんとはまたガラッと雰囲気の違ったお店だった。
可愛いが詰まった女の子のためのお店。どの洋服を見てもフリルかレースかリボンが必ずついていた。
「いらっしゃいませー。あ、灰士さんのご紹介のお客様ですね!」
店員さんが奥からやってきてにっこり笑う。
ゆるふわなセミロングの髪とマシュマロのような甘い笑顔の天使のように可愛らしい店員さんだった。彼女を見た瞬間、俺の胸には一瞬でハートのついた矢が刺さった。
もちろん、俺には刺さる体がないので実際に矢が飛んできててもスルーしてしまうだろうけど。
「私、このお店でバイトをしている夢乃って言います。よろしくお願いします!」
「夢乃さん……名前まで素敵だ!!」
「どうも」
伊緒さんは冷ややかな目で夢乃さんを見つめながら小声で俺に言う。
「こういう人が好み?」
「うん。最高」
鼻の下を必死で上げようとする俺に、伊緒さんはますます嫌な顔をする。
「ねえ伊緒さん、夢乃さんに彼氏がいるのか聞いてくれない? お願い!」
「聞いてどうすんのよ」
「俺にもチャンスがあるかもしれないだろ! それを生きる糧にするから、お願い!」
伊緒さんは俺を睨みながらため息をついた。
「ばっかじゃないの?」
「夢乃さん、彼氏はいるんですか?」
「えっ⁉︎ あ、はい」
夢乃さんは素直に赤くなって恥ずかしがる。やっぱりか。俺の生きる糧は早々に失われた。
「もしかして、その彼氏って灰士さんですか?」
「違います、違います。灰士さんとはただのお友達で」
伊緒さんの突っ込んだ質問に、夢乃さんは慌てる。なんか怪しいと思ったら、夢乃さんはこっそり告白してくれた。
「実は、灰士さんの弟さんとお付き合いをしてまして」
なるほど。灰士さんと夢乃さんという全くタイプの違う二人の間には弟さんがクッションされていたわけか。
っていうか、伊緒さんもやけに灰士さんにこだわってないか?
灰士さんみたいな人が伊緒さんの好みなのかな。俺とは正反対の人だ。落ち着いていて、ゆとりがあって、かっこいい。なんか落ち込む。
「それじゃあ始めましょうか。いくつかパターンを考えたので、お好みで選んでくださいね!」
夢乃さんが言った。伊緒さんはその選択を俺に丸投げした。
自分の希望を伝えていくうちに気分が乗ってきて、俺はまたワクワクしてきた。コーディネートが完成すると、俺は店の外で伊緒さんが着替えて出てくるのを待つことになった。
自分がオシャレをするわけじゃないけど、すごく楽しい。
伊緒さんがどんなに可愛くなってくるか楽しみで仕方ない。
店の前をウロウロすること15分。
ちょっと長すぎるなと思い、こっそり店内を覗き見しようとした時、唐突に店のドアが開いた。
そこには、現代版のお姫様がいた。
丸みのある大きな襟にあしらわれたフリルと、胸元のブラックリボンタイが可愛い真っ白な長袖ブラウス。袖はふんわりしていて袖口には波打つようなフリルがついていた。
ハイウエストの黒いフレアスカートは丈が短く、裾にはもちろんフリル。その下は黒のニーハイソックスとピンクの厚底ローファーだ。髪の色とお揃いでめちゃくちゃ可愛い。
「何見てんのよ」
俺を睨むその目に見覚えがある。
「伊緒さん……? 嘘だろ、めちゃくちゃ可愛い!!」
「あなたが選んだコーデじゃない」
本人は冷めた感じだけど、さっきの夢乃さんと甲乙つけがたい可愛さだ。
まさか伊緒さんがここまで化けるとは。
その後俺は10秒に1回のペースで可愛いと言ってしまい、とうとう伊緒さんに拳を振り上げられた。
「服と髪が可愛いだけでしょ。そんなの褒められたところで、嬉しくもなんともない!」
「いやいや、伊緒さんに似合っているから可愛いんだよ。灰士さんも言ってたじゃん。伊緒さんも知らない伊緒さんの魅力が眠ってたんだって。これが本当の伊緒さんの姿なんだよ」
「こんなの、私じゃない」
そう言いつつも、伊緒さんは照れたようにプイッと横を向いた。
素直じゃないけど、可愛くないとはもう言えなかった。
灰士さんは伊緒さんの真っ黒に塗り固めらた殻にひびを入れ、内側にあった美しいものを見事に引き出したのだ。
でも、ケープを外すと伊緒さんはまた見習い魔女のような服装で、上下の釣り合いが取れていなかった。
灰士さんも残念に思ったのか、スマホを片手にこんな提案をする。
「せっかくだから、下も変えとく? 俺のダチが近くのアパレル店で働いてるから、君の画像送っていいならすぐコーディネートを考えてもらうけど」
「是非に、お願いします!」
俺は土下座の勢いで頭を下げた。
こうして次の目的地が自動的に決まった。
「またのご来店お待ちしております」
「ありがとうございました!」
お世話になった灰士さんの店を出て、次は灰士さんのお友達がいるというアパレル店へと向かう。
ワクワクと同時に、俺の胸はドキドキしていた。
灰士さん、腕が良すぎ。
隣を歩く伊緒さんが可愛すぎて、みんなに見せびらかしたい気分だ。
「さっさと終わらせたいわ。ウイッグ熱いし、目とか痒いし早く外したい」
「わー! ダメだよ伊緒さん! いじったらカラコン取れちゃう!」
中身はいつもの可愛くない伊緒さんなんだけどな。ギャップの寒暖差で風邪をひきそうだ。
灰士さんが指定した次の店は、灰士さんとはまたガラッと雰囲気の違ったお店だった。
可愛いが詰まった女の子のためのお店。どの洋服を見てもフリルかレースかリボンが必ずついていた。
「いらっしゃいませー。あ、灰士さんのご紹介のお客様ですね!」
店員さんが奥からやってきてにっこり笑う。
ゆるふわなセミロングの髪とマシュマロのような甘い笑顔の天使のように可愛らしい店員さんだった。彼女を見た瞬間、俺の胸には一瞬でハートのついた矢が刺さった。
もちろん、俺には刺さる体がないので実際に矢が飛んできててもスルーしてしまうだろうけど。
「私、このお店でバイトをしている夢乃って言います。よろしくお願いします!」
「夢乃さん……名前まで素敵だ!!」
「どうも」
伊緒さんは冷ややかな目で夢乃さんを見つめながら小声で俺に言う。
「こういう人が好み?」
「うん。最高」
鼻の下を必死で上げようとする俺に、伊緒さんはますます嫌な顔をする。
「ねえ伊緒さん、夢乃さんに彼氏がいるのか聞いてくれない? お願い!」
「聞いてどうすんのよ」
「俺にもチャンスがあるかもしれないだろ! それを生きる糧にするから、お願い!」
伊緒さんは俺を睨みながらため息をついた。
「ばっかじゃないの?」
「夢乃さん、彼氏はいるんですか?」
「えっ⁉︎ あ、はい」
夢乃さんは素直に赤くなって恥ずかしがる。やっぱりか。俺の生きる糧は早々に失われた。
「もしかして、その彼氏って灰士さんですか?」
「違います、違います。灰士さんとはただのお友達で」
伊緒さんの突っ込んだ質問に、夢乃さんは慌てる。なんか怪しいと思ったら、夢乃さんはこっそり告白してくれた。
「実は、灰士さんの弟さんとお付き合いをしてまして」
なるほど。灰士さんと夢乃さんという全くタイプの違う二人の間には弟さんがクッションされていたわけか。
っていうか、伊緒さんもやけに灰士さんにこだわってないか?
灰士さんみたいな人が伊緒さんの好みなのかな。俺とは正反対の人だ。落ち着いていて、ゆとりがあって、かっこいい。なんか落ち込む。
「それじゃあ始めましょうか。いくつかパターンを考えたので、お好みで選んでくださいね!」
夢乃さんが言った。伊緒さんはその選択を俺に丸投げした。
自分の希望を伝えていくうちに気分が乗ってきて、俺はまたワクワクしてきた。コーディネートが完成すると、俺は店の外で伊緒さんが着替えて出てくるのを待つことになった。
自分がオシャレをするわけじゃないけど、すごく楽しい。
伊緒さんがどんなに可愛くなってくるか楽しみで仕方ない。
店の前をウロウロすること15分。
ちょっと長すぎるなと思い、こっそり店内を覗き見しようとした時、唐突に店のドアが開いた。
そこには、現代版のお姫様がいた。
丸みのある大きな襟にあしらわれたフリルと、胸元のブラックリボンタイが可愛い真っ白な長袖ブラウス。袖はふんわりしていて袖口には波打つようなフリルがついていた。
ハイウエストの黒いフレアスカートは丈が短く、裾にはもちろんフリル。その下は黒のニーハイソックスとピンクの厚底ローファーだ。髪の色とお揃いでめちゃくちゃ可愛い。
「何見てんのよ」
俺を睨むその目に見覚えがある。
「伊緒さん……? 嘘だろ、めちゃくちゃ可愛い!!」
「あなたが選んだコーデじゃない」
本人は冷めた感じだけど、さっきの夢乃さんと甲乙つけがたい可愛さだ。
まさか伊緒さんがここまで化けるとは。
その後俺は10秒に1回のペースで可愛いと言ってしまい、とうとう伊緒さんに拳を振り上げられた。
「服と髪が可愛いだけでしょ。そんなの褒められたところで、嬉しくもなんともない!」
「いやいや、伊緒さんに似合っているから可愛いんだよ。灰士さんも言ってたじゃん。伊緒さんも知らない伊緒さんの魅力が眠ってたんだって。これが本当の伊緒さんの姿なんだよ」
「こんなの、私じゃない」
そう言いつつも、伊緒さんは照れたようにプイッと横を向いた。
素直じゃないけど、可愛くないとはもう言えなかった。


