9月12日 わかれみち

 男子校の文化祭って、どうしてこんなにも落ち着かない気分になるんだろう。
 ぱらぱらと入ってくる制服を着た女子たちが、まるでダンジョンに迷い込んだ羊のように思えてしまうのは(上野に言ったら「羊? 狼の間違いじゃなくて?」と真顔で返されたけど)。
 かくいう俺も、入学したときはどこもかしこも男だらけという景色に、安心よりも恐怖に近いものを覚えた。たかが3年間、されど3年間を男子のみという空間で過ごした彼らは、自分とは纏っている色がちがって見えたのだ。
 もうすぐ11時。写真部の受付交代の時間だ。
 入り口前に座り、来場者数をカウントする。カメラ好きの来場者からの質問が稀にあるため、受付以外にひとり、部員も控えることになっている。
 教室に着くと、廊下に展示されたパネルの前で、上野が保護者に解説をしていた。邪魔にならないよう受付の椅子を引いた。保護者の感嘆の声に、カウンターを押すカチカチという音が重なる。

「今、どんくらい人来てる」

 やりきった感じの上野に、カウンターの数字を見せる。話を聞いてほしそうな雰囲気を察して、「どんな感じだった」と聞くと、くすぐったような笑顔だけが返ってきた。
 自分の作品を、いいねと言ってもらえる。期待していた通りの、もしくはそれ以上の評価がもらえる。
 いいねと言ってもらえた海シリーズを縮小してまで展示したかった写真が浮かび、色あせていった。
 衝動のままに撮った写真。構図もめちゃくちゃでレタッチもしていない写真。
 
 俺は、なにがしたかったんだろう。

 上野に受付を代わってもらい、教室に入った。展示は中学の部から始まり、俺は高校の部のいちばん最後に展示している。
 部長の写真の前には2、3人の人が立ち止まり、作品の世界に浸っていた。
 部長は被写体に風景を選ぶ。春の海、秋の山、雪景色。美しい自然をより鮮やかにして残す。
 そしてキャプションでも説明する。例えば『四月の海。朝』みたいに。
 部長の作り出した世界に、きちんと連れて行ってくれる安心感がある。迷子にならないから、見ていて心地いい。
 俺の写真も部長の影響を受けているし、海シリーズは四連の迫力もあって立ち止まってくれる人もいたけれど。
 いちばん観てほしかった『9月12日 わかれみち』とは、街で他人と目が合った程度の時間と温度で立ち去っていく。ただの落書きみたいに、なにかの間違いみたいに受け取られて、誰の心にも留まっていなさそうだった。
 中央の机の上には、感想ノートを置いている。素敵でした、感動しました、という全体に対するものもあれば、この写真が良かったと具体的な感想をくれる人もいたけれど。俺の写真に対するものはなかった。

 小さく息をつき、受付へと戻る。ブレザーを着た女子高校生の、短くしたスカートから伸びるすらりとした足を眺めていたら、ふっと風を感じた。肩から提げたトートバッグを握りしめ、長い髪をきっちりとまとめた私服の女子が入っていくところだった。
 カウンターのボタンを押し、窓の外、雲ひとつない青空に目を遣(や)った。