9月12日 わかれみち

 駅に向かうアーケードが、クリスマスモードで騒がしくなる。投稿されない小説をチェックする間隔が、一日、二日と伸びていき、約束の二ヶ月を過ぎるころにはもう、その習慣も途絶えてしまっていた。
 
 カシャ

 冬空に浮かぶ薄い雲を撮る。頬を切るような風の冷たさ、乾いた匂い。ひとりここにいることの寂しさ。すべて切り取るように、今日もシャッターを切る。表現することをあきらめてしまったら、なにも摑(つか)めない気がして。

 誰でもいい。誰か、ひとりだけでも。


 カメラを仕舞い、スマホを手に取る。
 久しぶりに見た小説のサイトは、画面のつくりが変わっていた。
 検索ボックスに文字を入れていく。


 9月12日 わかれみち


 一件の小説がヒットしたのは、何かの間違いかもしれないと思った。けれど表紙の夕焼けの画像に、これは彼女が書いた小説なのだと確信した。
 作品ページを開く。画像の下のコメントを見たとき、息を呑んだ。


 綺麗を集めた写真展で、
 自分の撮った写真を、落書き同然だと笑った君。
 わたしはあなたに、会えてよかった。
 9月12日、傷ついていた君へ
 これは、別れの痛みから始まる再生の物語。



「……どうして」


―― 夕焼けが、自分の選んだ道を明るく照らしてるみたいで。
 
 文化祭のとき、彼女はそう言っていた。
 だから彼女の書く物語は、
 親の反対を押し切って夢を叶えたとか、
 つらい練習にも負けずコンクールで優勝したとか、
 そういう、希望に満ち溢れたものだと思い込んでいた。

 だけど。
 傷ついていた。別れの痛み。
 どうして。

 文化祭のとき部長が言っていた、自分にはなかった視点に気づかされるって、こういうことか。

 俺の写真が、彼女をあの日あの時に連れて行ってくれて。
 そこで彼女は、なにを見たんだろう。
 俺が影を見つめている間、君は光に目を細めていたのだとしたら。
 そこにはどんな物語があるのか。
 
 知りたい。
 
 コメントの下には、目次が並んでいた。
 第一話は「シャッターを切った。」

 あの日、泣きながら夢中でシャッターを切ったときのように、
 震える指先で、そっとページを開いた。









(完)