第五三話
「そろそろ会場に出発する時間だよ! 真田くんは僕と一緒に病院に行こう。佐竹コーチ、皆をお願いできますか?」
清水先生の声に、僕はハッとなって時計を見上げた。もう、そんな時間になっていたのか。
緊張に震える手で、念のため持ってくるようにと言われていた、名前の書かれた垂れを手にしていた。道着と袴に着替え、垂れをつけて準備をしていると、真田先輩が使っていた紅白の襷を渡してくれた。
それは、審判が赤白の判定をしやすいように、背中につける目印だ。
僕はいつも皆の背中につけてばかりで、自分では付けたことがなかった。
「ありがとうございます」
そう返しながら紅白の襷を受け取ると、弁木先輩に「行くぞ」と肩を叩かれた。
「あとで俺も会場に行く。それまで負けるなよ」
そんな真田先輩の言葉を背に、僕らはホテルを後にしたのだった。
会場に着くと、今日もまた敗退のため会場を去る高校とすれ違う。涙を溢してる選手もいれば、慰めている選手もいる。
その姿に自分の姿を重ねそうになり、思わず首を横に振った。
「顔色悪いけど、大丈夫?」
「――あ、はい、何とか」
一臣先生に話しかけられて、覇気の無い声でしか返せない自分が情けない。
「九条くん、初陣なんだってね。大丈夫、皆最初は緊張するものだから、深呼吸して落ち着いて」
「――はい」
一臣先生の言葉通りに深呼吸を繰り返していると、弁木先輩と佐竹先輩が何やら話し合いをしているのが見えた。
その姿を見ながら、一臣先生が微笑ましそうに笑っていた。
「さっきは九条くん、いなかったから聞いてなかったけど、真田くんがいなくなった今、弁木くんが皆の精神的な支えになってたよ。真田くんとはまた違った、いい選手だなって思った」
「……そう、ですか」
「うん。弁木くんはもっと強くなる。今でも強さの片鱗はあるけど、何か彼を爆発的に成長させてくれる要素があるんじゃないかと思ってるんだけどな……」
そう呟いた向こうで、佐竹先輩が弁木先輩の肩を叩いていた。
弁木先輩に、背中に目印となる赤の襷をつけてもらいながら、緊張に早くなる鼓動を落ち着けるように何度も息を吸い直す。
(……オレンジの匂いだ。インターハイの日と同じ)
あまりの緊張に、背を向けた僕は、弁木先輩に問いかけた
「弁木先輩も……初陣は緊張しましたか?」
その言葉に、弁木先輩が頷いた。
「中学生だったからな。もうあんまり覚えてないけど、やたらと体育館の電灯が眩しかったのは覚えてる。あと、歓声に風圧があるような気がした」
「風圧……」
「でも、歓声が集中すると聞こえなくなるのが不思議だった。いや、聞こえてはいるんだけど、何も感じなくなるというのが正しいのかもしれないけどな」
「……そうですか」
「楽しめ、とか言われても、そんな余裕はなかったし、言ってる意味がわからなかった。でも、今は少しわかる気がする」
「……え?」
「凪と同じ舞台に立つの、楽しみなんだろうな、俺は――」
「そろそろ会場に出発する時間だよ! 真田くんは僕と一緒に病院に行こう。佐竹コーチ、皆をお願いできますか?」
清水先生の声に、僕はハッとなって時計を見上げた。もう、そんな時間になっていたのか。
緊張に震える手で、念のため持ってくるようにと言われていた、名前の書かれた垂れを手にしていた。道着と袴に着替え、垂れをつけて準備をしていると、真田先輩が使っていた紅白の襷を渡してくれた。
それは、審判が赤白の判定をしやすいように、背中につける目印だ。
僕はいつも皆の背中につけてばかりで、自分では付けたことがなかった。
「ありがとうございます」
そう返しながら紅白の襷を受け取ると、弁木先輩に「行くぞ」と肩を叩かれた。
「あとで俺も会場に行く。それまで負けるなよ」
そんな真田先輩の言葉を背に、僕らはホテルを後にしたのだった。
会場に着くと、今日もまた敗退のため会場を去る高校とすれ違う。涙を溢してる選手もいれば、慰めている選手もいる。
その姿に自分の姿を重ねそうになり、思わず首を横に振った。
「顔色悪いけど、大丈夫?」
「――あ、はい、何とか」
一臣先生に話しかけられて、覇気の無い声でしか返せない自分が情けない。
「九条くん、初陣なんだってね。大丈夫、皆最初は緊張するものだから、深呼吸して落ち着いて」
「――はい」
一臣先生の言葉通りに深呼吸を繰り返していると、弁木先輩と佐竹先輩が何やら話し合いをしているのが見えた。
その姿を見ながら、一臣先生が微笑ましそうに笑っていた。
「さっきは九条くん、いなかったから聞いてなかったけど、真田くんがいなくなった今、弁木くんが皆の精神的な支えになってたよ。真田くんとはまた違った、いい選手だなって思った」
「……そう、ですか」
「うん。弁木くんはもっと強くなる。今でも強さの片鱗はあるけど、何か彼を爆発的に成長させてくれる要素があるんじゃないかと思ってるんだけどな……」
そう呟いた向こうで、佐竹先輩が弁木先輩の肩を叩いていた。
弁木先輩に、背中に目印となる赤の襷をつけてもらいながら、緊張に早くなる鼓動を落ち着けるように何度も息を吸い直す。
(……オレンジの匂いだ。インターハイの日と同じ)
あまりの緊張に、背を向けた僕は、弁木先輩に問いかけた
「弁木先輩も……初陣は緊張しましたか?」
その言葉に、弁木先輩が頷いた。
「中学生だったからな。もうあんまり覚えてないけど、やたらと体育館の電灯が眩しかったのは覚えてる。あと、歓声に風圧があるような気がした」
「風圧……」
「でも、歓声が集中すると聞こえなくなるのが不思議だった。いや、聞こえてはいるんだけど、何も感じなくなるというのが正しいのかもしれないけどな」
「……そうですか」
「楽しめ、とか言われても、そんな余裕はなかったし、言ってる意味がわからなかった。でも、今は少しわかる気がする」
「……え?」
「凪と同じ舞台に立つの、楽しみなんだろうな、俺は――」
