第四六話
夜は、ホテルの敷地内でバーベキューが行われることになっていた。
高校生らしく、時間は二一時に終了ということもあり、ホテルに戻ったらすぐにバーベキューの準備が始まった。
野菜よりも肉が多いのは、顧問の清水先生の計らいらしい。
肉の多さに歓声が上がっていた。
ただ僕は、肉云々よりも早くベッドで横になってしまいたかったこともあり、輪に入ることなく端の方に座っていると、一臣先生がジュースを持ってやってきてくれた。
「ちょっと、初日から飛ばしすぎた?」
「……いえ、僕の体力がないだけで」
「大丈夫! これから頑張って体力つけていけばいいよ!」
元気に背中を叩かれると、コップが揺れてジュースが零れそうになるのを何とか支えてはいたが、既に瞼が重かった。
結局その夜、僕は部屋に戻ると――弁木先輩のパジャマ姿を見ることもなく、早々に眠ってしまった。
翌朝には、しっかり筋肉痛に襲われた。
朝食の時間もギリギリになり、二日目も、三日目も、弁木先輩を気にする余裕なんてほとんどなかった。
ただひたすら、剣道と向き合う。
――いや、向き合わざるを得なかった。
一臣先生は絶好調だった。
真田先輩をはじめ、時津高校部員は漏れなくみっちりしごかれていた。
特に、弁木先輩と佐竹先輩は、これでもかというほどに追い詰められていたが、二人とも最後まで食らいついていたのだから、本当に凄いとしか言いようがなかった。
全部終わってしまってからなら「勿体無いことをした」なんて言うことは簡単だ。
だけど、本気でそれどころではなかったのだ。
ただひたすらに、生きて帰ることを目標にするだけで必死だった。
そして、迎えた最終日。
明日の朝には車で帰るから、と最後の夜には花火大火が行われることになった。
最初にダッシュをした海岸へ行き、手持ち花火を持って、それぞれ思い思いに楽しむ。
僕が、最初から線香花火を持っていたのは、はしゃぐ元気も無かったからだ。
線香花火の小さな火を見つめながら、僕は考える。
こんな夏合宿でよかったのだろうか。
これっぽっちも「これでよかった」とは思っていない。
本当は、もっとたくさん弁木先輩と一緒にいたかったし、夜にだって秘密の逢瀬みたいなこともしてみたかった。
二人きりで話したり。
手を繋いで、海岸を歩いたり。
もしかしたら――。
そんなことを考えるだけで、胸の子ウサギたちが騒ぎ出す。
だけど、どれもこれもが全部僕の体力不足が原因で、何一つ叶えられなかった。
だからこその、線香花火だった。
弁木先輩は、佐竹先輩たちと一緒になって、打ち上げ花火を楽しんでいる。
僕は、その様子を少し離れたところから眺めているだけ。
もう悔しくて悲しくて、胸にいる子ウサギたちも、屍のように重なって震えているだけだ。
――僕の夏は、終わった。
ふぅ、と小さなため息をついた、その時だった。
「部屋戻るか」
「――え?」
弁木先輩が僕の腕を掴んで引き上げる。
「疲れてんだろ? 部屋まで送る」
「え、でも……」
「先に帰るって、清水先生には言っといた。凪が限界なの、皆知ってるしな」
「でも、まだ花火……」
「いい。花火ぐらい、やらなくても平気だし」
申し訳なくて。
嬉しくて。
その二つが、ぐちゃぐちゃに混ざってしまう。
さっきまで屍のように倒れていた子ウサギたちが、少しずつ顔を上げ始めていた。
夜は、ホテルの敷地内でバーベキューが行われることになっていた。
高校生らしく、時間は二一時に終了ということもあり、ホテルに戻ったらすぐにバーベキューの準備が始まった。
野菜よりも肉が多いのは、顧問の清水先生の計らいらしい。
肉の多さに歓声が上がっていた。
ただ僕は、肉云々よりも早くベッドで横になってしまいたかったこともあり、輪に入ることなく端の方に座っていると、一臣先生がジュースを持ってやってきてくれた。
「ちょっと、初日から飛ばしすぎた?」
「……いえ、僕の体力がないだけで」
「大丈夫! これから頑張って体力つけていけばいいよ!」
元気に背中を叩かれると、コップが揺れてジュースが零れそうになるのを何とか支えてはいたが、既に瞼が重かった。
結局その夜、僕は部屋に戻ると――弁木先輩のパジャマ姿を見ることもなく、早々に眠ってしまった。
翌朝には、しっかり筋肉痛に襲われた。
朝食の時間もギリギリになり、二日目も、三日目も、弁木先輩を気にする余裕なんてほとんどなかった。
ただひたすら、剣道と向き合う。
――いや、向き合わざるを得なかった。
一臣先生は絶好調だった。
真田先輩をはじめ、時津高校部員は漏れなくみっちりしごかれていた。
特に、弁木先輩と佐竹先輩は、これでもかというほどに追い詰められていたが、二人とも最後まで食らいついていたのだから、本当に凄いとしか言いようがなかった。
全部終わってしまってからなら「勿体無いことをした」なんて言うことは簡単だ。
だけど、本気でそれどころではなかったのだ。
ただひたすらに、生きて帰ることを目標にするだけで必死だった。
そして、迎えた最終日。
明日の朝には車で帰るから、と最後の夜には花火大火が行われることになった。
最初にダッシュをした海岸へ行き、手持ち花火を持って、それぞれ思い思いに楽しむ。
僕が、最初から線香花火を持っていたのは、はしゃぐ元気も無かったからだ。
線香花火の小さな火を見つめながら、僕は考える。
こんな夏合宿でよかったのだろうか。
これっぽっちも「これでよかった」とは思っていない。
本当は、もっとたくさん弁木先輩と一緒にいたかったし、夜にだって秘密の逢瀬みたいなこともしてみたかった。
二人きりで話したり。
手を繋いで、海岸を歩いたり。
もしかしたら――。
そんなことを考えるだけで、胸の子ウサギたちが騒ぎ出す。
だけど、どれもこれもが全部僕の体力不足が原因で、何一つ叶えられなかった。
だからこその、線香花火だった。
弁木先輩は、佐竹先輩たちと一緒になって、打ち上げ花火を楽しんでいる。
僕は、その様子を少し離れたところから眺めているだけ。
もう悔しくて悲しくて、胸にいる子ウサギたちも、屍のように重なって震えているだけだ。
――僕の夏は、終わった。
ふぅ、と小さなため息をついた、その時だった。
「部屋戻るか」
「――え?」
弁木先輩が僕の腕を掴んで引き上げる。
「疲れてんだろ? 部屋まで送る」
「え、でも……」
「先に帰るって、清水先生には言っといた。凪が限界なの、皆知ってるしな」
「でも、まだ花火……」
「いい。花火ぐらい、やらなくても平気だし」
申し訳なくて。
嬉しくて。
その二つが、ぐちゃぐちゃに混ざってしまう。
さっきまで屍のように倒れていた子ウサギたちが、少しずつ顔を上げ始めていた。
