第四〇話
机の端にスピーカーに変えたスマホを立てかけると、カバンから宿題を引っ張り出す。
教科書を広げながら、明日からは僕も休み時間に終わらせるようにしよう、と思っていた。
だって、待たせてると思うと申し訳なさが募るし、音を聞かれてると思うとページを捲るのにも気を遣うし、何より電話の向こうで何をしているのかは定かじゃない弁木先輩と話がしたくて、一刻も早く終わらせたいと思う気持ちに拍車がかかる。
教科書を見ながら、ノートに文字を書く音だけが響く室内。今はしっかりと宿題に向き合わなきゃ、と思うのに。
僕の脳内は少しずつ侵食されるように、何も音を立てない弁木先輩のことばかり考えるようになっていた。
(ベッドの上に座ってるのかな? それともベッドのすぐ下? そもそも何してるんだろう。全然音がしないけど)
「今、何してるんですか?」
『……ん?』
「課題、全部終わっちゃったんですよね?」
『凪は終わったのか?』
「あ……いや、あと、もうちょっとなんですけど」
『なら、終わってからな』
――あぁん、意地悪!
――気になるのに!
――鬼! 悪魔!
――でも、大好きだから困る!
胸の子ウサギたちが適当なことを言いまくる。
それでも僕は、必死にノートを埋めていく作業に没頭した。
だけど、弁木先輩のことが気になって、集中できない。
僕は答えを間違えていることにも気づかないまま、ただ宿題を終えるのに躍起になっていた。
「終わりました!」
僕がそう弁木先輩に告げると、
『お疲れ』と、いう労いの言葉が返ってきた。
電話の向こうからゴソゴソと動く音がしたから、気を遣って静かに過ごしてくれていたんだろうことに、ほわ、と胸が温かくなった。
明日の時間割を確認して、教科書を入れ替えていたら、ぽつりと弁木先輩から爆弾が落とされた。
『……なぁ、一個聞いていいか?』
「何ですか?」
『凪はさ、俺のどこを好きになったんだ?』
「――えっ!? あっ……、えっと……、そうですね……どこ……」
――どこって言われると困るんだけどなぁ……強いて言えば
――匂い! 顔! 襟足!
――でも、格好いいところも好きだしなぁ!
――いやもう、どことかじゃなくて、存在そのものが好き!
最後の子ウサギの言葉に、他の子ウサギたちが大きく頷くようにぴょんぴょん跳ねた。
「えっと……全部、ですかね?」
『全部?』
「全部って言っても……ごめんなさい。僕が知ってるところ、だけかもしれないですけど……」
その言葉に、弁木先輩が小さく笑うのが聞こえた。
『なら、まだ全部じゃないかもな』
「……そうですね」
僕も小さく笑うと、弁木先輩が静かに続けた。
『また、全部見せられるようにする』
「――えっ!?」
僕は思わず手を握りしめていた。
――どういうこと!?
――全部見せてくれるの!?
――その上で、全部、好きになれってこと!?
子ウサギたちが一斉にワイワイ騒ぎ、泡を吹きながら倒れていき、僕もいっそのこと気絶してしまいたかった。
(こんなの、心臓が保たない……! もはや、ずっぶずぶの沼だ!!)
そして案の定。
寝落ちした弁木先輩の寝息を聞きながら、今日も僕はエア弁木先輩を抱きしめながら眠りに就くことになった。
だけど、今までのどの夜も、幸せでふわふわで――嬉し過ぎて、眠れない夜だった。
――そして事件は、この日から三日後に起こった。
机の端にスピーカーに変えたスマホを立てかけると、カバンから宿題を引っ張り出す。
教科書を広げながら、明日からは僕も休み時間に終わらせるようにしよう、と思っていた。
だって、待たせてると思うと申し訳なさが募るし、音を聞かれてると思うとページを捲るのにも気を遣うし、何より電話の向こうで何をしているのかは定かじゃない弁木先輩と話がしたくて、一刻も早く終わらせたいと思う気持ちに拍車がかかる。
教科書を見ながら、ノートに文字を書く音だけが響く室内。今はしっかりと宿題に向き合わなきゃ、と思うのに。
僕の脳内は少しずつ侵食されるように、何も音を立てない弁木先輩のことばかり考えるようになっていた。
(ベッドの上に座ってるのかな? それともベッドのすぐ下? そもそも何してるんだろう。全然音がしないけど)
「今、何してるんですか?」
『……ん?』
「課題、全部終わっちゃったんですよね?」
『凪は終わったのか?』
「あ……いや、あと、もうちょっとなんですけど」
『なら、終わってからな』
――あぁん、意地悪!
――気になるのに!
――鬼! 悪魔!
――でも、大好きだから困る!
胸の子ウサギたちが適当なことを言いまくる。
それでも僕は、必死にノートを埋めていく作業に没頭した。
だけど、弁木先輩のことが気になって、集中できない。
僕は答えを間違えていることにも気づかないまま、ただ宿題を終えるのに躍起になっていた。
「終わりました!」
僕がそう弁木先輩に告げると、
『お疲れ』と、いう労いの言葉が返ってきた。
電話の向こうからゴソゴソと動く音がしたから、気を遣って静かに過ごしてくれていたんだろうことに、ほわ、と胸が温かくなった。
明日の時間割を確認して、教科書を入れ替えていたら、ぽつりと弁木先輩から爆弾が落とされた。
『……なぁ、一個聞いていいか?』
「何ですか?」
『凪はさ、俺のどこを好きになったんだ?』
「――えっ!? あっ……、えっと……、そうですね……どこ……」
――どこって言われると困るんだけどなぁ……強いて言えば
――匂い! 顔! 襟足!
――でも、格好いいところも好きだしなぁ!
――いやもう、どことかじゃなくて、存在そのものが好き!
最後の子ウサギの言葉に、他の子ウサギたちが大きく頷くようにぴょんぴょん跳ねた。
「えっと……全部、ですかね?」
『全部?』
「全部って言っても……ごめんなさい。僕が知ってるところ、だけかもしれないですけど……」
その言葉に、弁木先輩が小さく笑うのが聞こえた。
『なら、まだ全部じゃないかもな』
「……そうですね」
僕も小さく笑うと、弁木先輩が静かに続けた。
『また、全部見せられるようにする』
「――えっ!?」
僕は思わず手を握りしめていた。
――どういうこと!?
――全部見せてくれるの!?
――その上で、全部、好きになれってこと!?
子ウサギたちが一斉にワイワイ騒ぎ、泡を吹きながら倒れていき、僕もいっそのこと気絶してしまいたかった。
(こんなの、心臓が保たない……! もはや、ずっぶずぶの沼だ!!)
そして案の定。
寝落ちした弁木先輩の寝息を聞きながら、今日も僕はエア弁木先輩を抱きしめながら眠りに就くことになった。
だけど、今までのどの夜も、幸せでふわふわで――嬉し過ぎて、眠れない夜だった。
――そして事件は、この日から三日後に起こった。
