第三三話
「お先、失礼します」
ロッカーを閉じると、まだ何か言ってる佐竹先輩に背を向けて、僕は重い体を引きずるように部室を出た。
あれほど楽しみだった合宿も、今は何の楽しみにも思えなかった。
そもそも、剣道を続ける意味だって、もう分からない。
ただ、弁木先輩の隣にいたかったから、剣道を続けようって思ってただけ。
別に僕自身が続けたいと切望してたわけじゃない。ただ、隣にいる方法を考えたら、それしかなかっただけ。
重い気持ちのまま、少し薄暗い学校の校庭を歩いていると、校庭のど真ん中で何かを組み立てている集団が目に入った。
視線だけで何をしているのかと窺うと、どうやら望遠鏡を組み立てているらしかった。
スマホのライトを翳しながら、小さな部品を持ち上げ説明書と見比べている。
(今日は、天体観測にでも向いている日なのかな)
そう思っていた時、僕の視界の中に見知った顔が見えた気がした。
あれって確か――辞めた三年生四人に続いて、退部届を出した二年生二人じゃ……?
剣道部では見たことがないほどに楽しげに、説明書と望遠鏡を見比べている。
あの二人も、剣道部に入ったものの、ずっと無理をしてたのかもしれない。
僕とは違って、上手に風を読み、絶好のタイミングで退部したのかもしれない。
僕は剣道部にいて、あんな笑顔ができているだろうか。
(僕も……やっぱり辞めようかな)
制服のポケットに入れた退部届が、ずしんと重くなった気がした。
真田先輩をがっかりさせてしまうかもしれない。
だけど、僕はずっとこんな人間だ。
ただ弁木先輩が格好良くて、好きだったから、頑張ろうって思えただけ。
傍にいられないのなら、続けても意味がない。
ずっと、片思いでもいい、僕だけが弁木先輩を好きでいれればいい、って思っていたのは本当。
だけど、それができたのは――弁木先輩からの気持ちが分からなかったからだ。
僕のことを「好きなわけがない」とはっきり言葉にされてしまっても。
「僕は弁木先輩が好きだ」
なんて言えるほど、僕は強くもない。そこまで想い続けられるほど、強くもなかった。
退部届と同じで、ずっと渡せなかっただけだ。
はっきりと「好きじゃない」って言われるのが怖くて、ずっと胸に隠して傍にいただけで――。
僕は、周りが暗いことを理由にして、零れ落ちる涙を拭わないまま歩き続けた。
どこへ向かうのかも分からない。
ただ、足だけが勝手に前へ進んでいく。
そんな僕が、重い体を引きずるようにして辿り着いたのは、小学校の体育館だった。
今日もここで剣道を教えてもらうつもりだった。だけど、続けるかどうかも分からないこともあり「一度休みたい」と言おうと思っていたのだ。
狩野先生も一臣先生も、僕のために小学生への指導が終わった後も残ってくれるのだ。
何も言わずに休むことだけは、僕にもできなかった。
だから、ちゃんと顔を出して、伝えようと思っていた。
――なのに、まさか。
自分が向かった小学校の体育館に、今、一番会いたくない人がいるなんて。
扉を開けた瞬間、僕の足が、止まった。
そこにいたのは――弁木先輩だった。
「お先、失礼します」
ロッカーを閉じると、まだ何か言ってる佐竹先輩に背を向けて、僕は重い体を引きずるように部室を出た。
あれほど楽しみだった合宿も、今は何の楽しみにも思えなかった。
そもそも、剣道を続ける意味だって、もう分からない。
ただ、弁木先輩の隣にいたかったから、剣道を続けようって思ってただけ。
別に僕自身が続けたいと切望してたわけじゃない。ただ、隣にいる方法を考えたら、それしかなかっただけ。
重い気持ちのまま、少し薄暗い学校の校庭を歩いていると、校庭のど真ん中で何かを組み立てている集団が目に入った。
視線だけで何をしているのかと窺うと、どうやら望遠鏡を組み立てているらしかった。
スマホのライトを翳しながら、小さな部品を持ち上げ説明書と見比べている。
(今日は、天体観測にでも向いている日なのかな)
そう思っていた時、僕の視界の中に見知った顔が見えた気がした。
あれって確か――辞めた三年生四人に続いて、退部届を出した二年生二人じゃ……?
剣道部では見たことがないほどに楽しげに、説明書と望遠鏡を見比べている。
あの二人も、剣道部に入ったものの、ずっと無理をしてたのかもしれない。
僕とは違って、上手に風を読み、絶好のタイミングで退部したのかもしれない。
僕は剣道部にいて、あんな笑顔ができているだろうか。
(僕も……やっぱり辞めようかな)
制服のポケットに入れた退部届が、ずしんと重くなった気がした。
真田先輩をがっかりさせてしまうかもしれない。
だけど、僕はずっとこんな人間だ。
ただ弁木先輩が格好良くて、好きだったから、頑張ろうって思えただけ。
傍にいられないのなら、続けても意味がない。
ずっと、片思いでもいい、僕だけが弁木先輩を好きでいれればいい、って思っていたのは本当。
だけど、それができたのは――弁木先輩からの気持ちが分からなかったからだ。
僕のことを「好きなわけがない」とはっきり言葉にされてしまっても。
「僕は弁木先輩が好きだ」
なんて言えるほど、僕は強くもない。そこまで想い続けられるほど、強くもなかった。
退部届と同じで、ずっと渡せなかっただけだ。
はっきりと「好きじゃない」って言われるのが怖くて、ずっと胸に隠して傍にいただけで――。
僕は、周りが暗いことを理由にして、零れ落ちる涙を拭わないまま歩き続けた。
どこへ向かうのかも分からない。
ただ、足だけが勝手に前へ進んでいく。
そんな僕が、重い体を引きずるようにして辿り着いたのは、小学校の体育館だった。
今日もここで剣道を教えてもらうつもりだった。だけど、続けるかどうかも分からないこともあり「一度休みたい」と言おうと思っていたのだ。
狩野先生も一臣先生も、僕のために小学生への指導が終わった後も残ってくれるのだ。
何も言わずに休むことだけは、僕にもできなかった。
だから、ちゃんと顔を出して、伝えようと思っていた。
――なのに、まさか。
自分が向かった小学校の体育館に、今、一番会いたくない人がいるなんて。
扉を開けた瞬間、僕の足が、止まった。
そこにいたのは――弁木先輩だった。
