判官贔屓の恋

第三二話

「いえっ、ラブレターなんかじゃ……」
 とは言ったものの、だったら何なんだ、と詰められれば、一体どう説明すればいいのか。
 必死に考えたけど、それ以上言葉が出なかった。
 だって、見せろって言われても見せられるわけがない。

「あの、どこから聞いてたんですか?」
 一抹の望みをかけて聞いてみる。
 すると佐竹先輩は、少しも悪びれた様子なく答えた。
「これは九条に返す、ってラブレター突き返された時?」
 僕は、さらに頭を抱えた。確かに状況だけ見れば、フラれたように見えた、かもしれない。
 佐竹先輩にしてみれば、ラブレターを渡したけど、それを突き返された。
 つまり、告白したけれど、受け取ってもらえなかった、というシーンに出くわしたということなのだろう。
 佐竹先輩がやたらニヤニヤしているのは、身近な人間同士の恋愛事情を目撃したからだろうか。

 僕がフラれて傷心しているとでも思っているのかもしれないし、いっそのこと、傷口に塩を塗りたくるつもりでニヤニヤしているのかもしれない。
 でも、残念ながら僕は失恋なんてしていない。
 傷口がないから、沁みる痛みもない。
 ――そう思っていた。
 だけど、僕は続いた佐竹先輩の言葉に目を剥くことになる。

「俺、お前は弁木(わけぎ)のことが好きだと思ってたんだけどな」
「――えっ!?」
「いや、お前、何かっていうと弁木(わけぎ)の隣にいるし、フガフガ匂い嗅いでんじゃん」
「フガフガ……!?」
「だから、お前は弁木(わけぎ)のことが好きなんだろうな、って思ってたんだけど、まさかそっちがカモフラージュで、本命が真田先輩だったとはなぁ……」
「いや、そういうわけじゃ……」
「まぁ弁木(わけぎ)もお前のこと好きそうだったし、付き合ってんのかと思ってたのにさ。聞いたら『好きとか、あるわけないだろ』って、言って先帰っちまうし」
 
 佐竹先輩の言葉に、心臓がバクバクし始めていた。
 だって、それじゃまるで――。

「さっき、弁木(わけぎ)と一緒にラブレター突き返されるシーン見てたから」

 その言葉に、僕の目の前は、真っ白になっていくみたいだった。
 ずっと好きだった弁木(わけぎ)先輩に、真田先輩が好きだったと誤解された。
 それだけなら、まだいい。……よくないけど、まだいいんだ。
 問題は、そこじゃない。
 
「好きとか、あるわけないだろ」

 そう言われてしまったことだ。

 もしかしたら、心のどこかで、少しくらいは僕のことを好きでいてくれているんじゃないか。
 そんな期待を、僕はずっとしていた。
 隣にいても嫌がらない。
 柔軟の時には、いつも僕に背中を押させてくれる。
 それに、寝落ち通話だって、もう何度もした。
 好きで、好きで、大好きで。大好きを想い続けたら、いつか届くんじゃないか、そんな風に、期待してる自分が――。

 だけど、僕にはそんなことを期待しても、ちっとも望みなんか無かったらしい。

 真田先輩にラブレターを渡してフラれた、と思われた日に。
 僕は、本当に好きだった弁木(わけぎ)先輩に、フラれてしまったらしい。
 まだ、何も始まってない。いや、始まりもしなかった恋が、終わってしまった。
 目の前が、滲んでいく。
 どうしてだろう。まだ告白すらしていないのに。こんなにも、胸が痛かった。