第二話
剣道場を飛び出した僕は、廊下の壁にもたれて大きく息を吐いた。
さっきの人の目が、頭から離れない。
「……そうだ、部活」
呟いてから首を振った。
今は入部する部活を考えなきゃいけないし、何よりスタンプを三つ集めないといけないのに、まだ一つも押してもらえていない。
運動部は無理だし、音楽も無理。だったら文化部しかない。
ちょうどその時、「今から、演劇部の公演が始まります!」という声が聞こえて、僕は流されるように部屋へ入った。
隣に座った見知らぬ生徒は、目をキラキラさせながら舞台にのめり込んでいる。だけど、さっきの衝撃に頭の半分以上を持っていかれていた僕には、ちっとも話が入ってこない。
さらに、テノール歌手かと思うほどの歌声が響いた瞬間、僕は思わず目を見開いた。
――無理だ。
中学のベテラン音楽教師に、「ここまでリズムも音程も取れない生徒は初めてだ」と匙を投げられた僕に、こんな声が出せるはずがない。
隣の部屋では、美術部が白いキャンバスにその場で絵を描くパフォーマンスをしていた。
ジャージ姿の生徒が、適当に色を乗せていく。
(……これだったらできるかも!)
中学の美術の授業で、静物画に一〇〇点中五点をつけられた僕でも、これならできそうに思えた。
だけど、それも束の間だった。
適当に色を置いているようにしか見えなかった絵が、最後には見違えるほど綺麗な一枚に仕上がっていた。
(この高校、レベル高くないか!?)
どちらに入っても、指導してくれる先生や先輩に迷惑をかけてしまうかもしれない。
そんなことを考えていたら、「終了五分前」を知らせる放送が校内に響き渡った。
まだ二つしか溜まっていない用紙を見下ろし、僕は少し呆然とする。周りを見れば、皆ちゃんとスタンプを集め終わって、既にどこの部に入るかも決めているように見えた。
(……どうしよう)
慌てて校内を走り回るが、もうどの部もパフォーマンスを終えて片付けを始めていてスタンプなんかもらえそうにない。
ちゃんと見学もしていないのに、スタンプだけもらいに行くのは気が引ける。
望みをかけるとすれば、さっき模擬試合を見た、剣道部だけしかない。
(でも、入部もしないのに、スタンプだけもらいに行くの、やだな)
さっきの赤の襷の人もいるよね、きっと。
そう思ったら、もじもじと、用紙の端を折ってしまう。だけど、どうせ向こうは僕のことなんて、覚えてないはずだ。スタンプをもらいに行くだけなのに、妙に恥ずかしくて、なかなか一歩が踏み出せないままでいた。
「そろそろ時間だぞー! 教室に戻ってー!」
先生の言葉に、僕は踵を返し、剣道場へ向かって走り出していた。
剣道場を飛び出した僕は、廊下の壁にもたれて大きく息を吐いた。
さっきの人の目が、頭から離れない。
「……そうだ、部活」
呟いてから首を振った。
今は入部する部活を考えなきゃいけないし、何よりスタンプを三つ集めないといけないのに、まだ一つも押してもらえていない。
運動部は無理だし、音楽も無理。だったら文化部しかない。
ちょうどその時、「今から、演劇部の公演が始まります!」という声が聞こえて、僕は流されるように部屋へ入った。
隣に座った見知らぬ生徒は、目をキラキラさせながら舞台にのめり込んでいる。だけど、さっきの衝撃に頭の半分以上を持っていかれていた僕には、ちっとも話が入ってこない。
さらに、テノール歌手かと思うほどの歌声が響いた瞬間、僕は思わず目を見開いた。
――無理だ。
中学のベテラン音楽教師に、「ここまでリズムも音程も取れない生徒は初めてだ」と匙を投げられた僕に、こんな声が出せるはずがない。
隣の部屋では、美術部が白いキャンバスにその場で絵を描くパフォーマンスをしていた。
ジャージ姿の生徒が、適当に色を乗せていく。
(……これだったらできるかも!)
中学の美術の授業で、静物画に一〇〇点中五点をつけられた僕でも、これならできそうに思えた。
だけど、それも束の間だった。
適当に色を置いているようにしか見えなかった絵が、最後には見違えるほど綺麗な一枚に仕上がっていた。
(この高校、レベル高くないか!?)
どちらに入っても、指導してくれる先生や先輩に迷惑をかけてしまうかもしれない。
そんなことを考えていたら、「終了五分前」を知らせる放送が校内に響き渡った。
まだ二つしか溜まっていない用紙を見下ろし、僕は少し呆然とする。周りを見れば、皆ちゃんとスタンプを集め終わって、既にどこの部に入るかも決めているように見えた。
(……どうしよう)
慌てて校内を走り回るが、もうどの部もパフォーマンスを終えて片付けを始めていてスタンプなんかもらえそうにない。
ちゃんと見学もしていないのに、スタンプだけもらいに行くのは気が引ける。
望みをかけるとすれば、さっき模擬試合を見た、剣道部だけしかない。
(でも、入部もしないのに、スタンプだけもらいに行くの、やだな)
さっきの赤の襷の人もいるよね、きっと。
そう思ったら、もじもじと、用紙の端を折ってしまう。だけど、どうせ向こうは僕のことなんて、覚えてないはずだ。スタンプをもらいに行くだけなのに、妙に恥ずかしくて、なかなか一歩が踏み出せないままでいた。
「そろそろ時間だぞー! 教室に戻ってー!」
先生の言葉に、僕は踵を返し、剣道場へ向かって走り出していた。
