判官贔屓の恋

第一九話

 だけど、僕の必死の願いも虚しく――そこから、弁木(わけぎ)先輩は持ち直すこともできず、新見(にいみ)さんに二本目も取られてしまい、インターハイ予選の敗退が確定してしまったのだった。

 きっと新見(にいみ)さんは、宣言通りに勝利を重ね、決勝で真田先輩と戦うことになるのだろう。
 僕は佐竹先輩に、動画撮影をお願いすると客席を後にした。

 階段を降りると、控え室のあたりへ向かう。きょろきょろと辺りを見渡しながら廊下を進むと、背後から声を掛けられた。

「――九条、」

 その声に振り向くと、防具をつけた真田先輩がそこにいた。もうすぐ次の試合が始まるのだろう。

(試合の動画撮影もせずに、何してるんだって怒られるかな)
 
 僕は補欠選手でありながら、いつの間にかマネージャーというポジションに落ち着いた癖に、その仕事すら放棄するのか、と。
 僕は真田先輩に何と言い訳したらいいか分からずに口ごもっていると、先輩が僕の肩をポンと叩いた。

「弁木(わけぎ)を探してるんだろ?」
「――あ、はい!」
「だったら“帰ったら、もう一度、全部やり直すぞ“、と伝えておいてくれ」

 面の奥で、真田先輩がしっかりと頷く。
 当然、さっきの試合も見ていたのだろう。
 だけど、嘘でも「いい試合だった」なんて言わない。
 そんな真田先輩の実直さが、なんだか可笑しくて、少しだけ笑ってしまった。
 弁木(わけぎ)先輩の姿を見ても、呆れることも、責めることもない。
 全部分かった上で、「全部やり直すぞ」そう言っているんだ。
 弁木(わけぎ)先輩は、まだまだこれから伸びる。
 そう言っていた真田先輩だからこそ、言える言葉なのだと思った。

「わかりました」

 僕が頷くと、真田先輩は軽く手を上げて、場内へと歩いていった。

 僕は、真田先輩からの伝言を胸に、弁木(わけぎ)先輩の姿を探して、あちこちを駆け回る。

 だけど、控室にも、会場にも、弁木(わけぎ)先輩の姿は見つからなかった。
 額に汗を浮かべながら走り回った僕は、やがて会場の裏手へと回った。
 そして――
 階段に座り込んでいる、弁木(わけぎ)先輩の背中を見つけた。