判官贔屓の恋

第一七話

 膝に置いた手に汗が滲んでいることに気づくと、軽く掌を拭い、小さくため息を吐いた。

 トーナメント表には、既に赤いペンでいくつも線が引かれている。
 今回の大会が初陣となった一年生の田中くんと加藤くんは、既に敗退が決まった。
 ついさっき、佐竹先輩の敗退も決まった。
 残っているのは、真田先輩と弁木(わけぎ)先輩の二人だけ。
 あれから順当に勝ち上がった弁木(わけぎ)先輩は、次に新見(にいみ)さんと当たることになっていた。

(……大丈夫、弁木(わけぎ)先輩が負けるはずない)
 
 そう信じている。
 それなのに、何故か僕の胸に広がるのは、不安だった。
 
 真田先輩の剣道も、弁木(わけぎ)先輩の剣道も、どちらも目指しているのは強い剣道だ。
 相手への礼儀を忘れず、常に強く正しく、真っ直ぐ突き進む。
 これこそ正に剣道の真髄だ、と言えるようなものに僕には思えた。
 スマホの動画をチェックしていると、佐竹先輩が隣にドカリと腰を下ろした。

「お疲れ様でした」と声を掛けるべきか、それよりも他の言葉がいいのか。
 何と声を掛けるべきか悩んで言葉に詰まっていたら、先に佐竹先輩が呟いた。

「弁木(わけぎ)の対戦相手。次、あいつなんだろ?」
「……はい」
「真田先輩から聞いた」

 その言葉に僕は、手にしたスマホをギュッと握りしめる。

「柔よく剛を制す。新見(にいみ)の強さは、それらしい」
「柔よく、剛を制す……?」

 僕は咄嗟にスマホの動画を探し出すと、さっき撮ったばかりの新見(にいみ)さんの試合を再生し始める。

(僕は、あの動きを「軽い」と思った)
 
 でも、そうじゃないのか。
 あの「軽さ」は「柔らかさ」と、表現すればいいのか。
 柔らかい動きで、真正面からやってくる強い力を、受け流していたのか。
 ふらふらと揺れていた竹刀も、あの体も、向けられる強い力を受け流すためのもの。

 真田先輩も、弁木(わけぎ)先輩も正面から相手と向き合う剣道だ。
 その力を、受け流されたとしたら――そう思っていると、佐竹先輩が静かに続けた。

「このままだと、弁木(わけぎ)、負けるかもな」