十七歳の女子高生が人生を売ったら、彼女よりも高額査定だった

「ん……」
 アラームの音が、夢の底に沈んでいた意識を引き上げる。
 カーテン越しの朝の光が、部屋を満たしていることに気づく。
 まだ冷たい空気を吸い込むのも辛い時刻の中で、私は枕元のスマートフォンに手を伸ばす。

『担任との進路相談』
17歳/女子
¥612,400

『LIFE―ライフ―』を開くと、そこには馴染みのランキングが表示される。
 並んでいる自分の名前を見て、大きく欠伸をする。

(……六十一万二千四百円)

 以前の私なら、この数字ひとつで一日が左右されていた。
 昨日よりも上がった、昨日よりも下がった。
 見知らぬAさんより高い、見知らぬBさんよりも低いって、一喜一憂していた。
 それでも、サイトに表示された数字だけが私の人生じゃないってことを思い出す。

(何も感じないわけじゃないけど)

 今だって、まったく気にならないわけじゃない。
 思ったほど伸びていなければ落ち込んで、できるならもっと上がってほしいと思う。

(……こんなものかな)

 体から、力が抜けていく。
 数字が気になる自分を、無理に嫌う必要はないのかもしれない。

「……よし」

 ベッドの中で大きく体を伸ばして、ベッドの外の冷たさに立ち向かう準備を整える。
(……これでいい)

『LIFE―ライフ―』を見てしまう日があっても、もっと高くなればいいと願う自分がいても、それはすべて百田心花の人生。
 この数字だけが自分の人生じゃないと言い聞かせながら、私はスマートフォンを鞄の中に片付けた。

「おはよう」
「おはよう、心花」

 私が、どんな人生を生きているのか。
 誰を好きになって、誰と笑って、何に悩んで、何を大切にしてきたのか。
 そんなことを思い出しながら、母が焼いてくれた食パンを一口かじる。

(私の人生は、数字では測れない)

 笑った日も、泣いた夜も、誰かを嫌いになった瞬間も、そのすべてがたったひとつの値段に収まるはずがない。

「いってきます」
「いってらっしゃい」

 眩しすぎて嫌になっちゃうほどの朝の光に背中を押されながら、私は今日も学校へと向かう。

「それ、新しい絵?」

 教室に入ると、藍は窓の外と睨めっこをしながらスケッチブックを胸に抱えていた。
 朝の教室はまだ生徒の数がまばらで、窓際の光だけが存在感を主張してくる。

「文化祭が終わったら、もう卒業制作だって」

 教室に差し込む光に屈することなく、藍は手にしている鉛筆を動かしていく。

「……校門?」
「ありきたりの気もするけど、描いてみなきゃ分かんないから」

 ちょっと前までなら、私は藍の笑顔の意味を必死に探っていたと思う。
 どんな絵になるのか、何かの賞を取れるのか、誰かに評価されるのか。
 そして、その過程を経た藍の人生はどれくらいの価値になるのか。
 査定価格として表示された数字が、どんな未来を連れてくるのかということばかり考えていた。

「ねえ、藍」
「ん?」
「藍は、これからも絵を描く?」
「描くよ」

 迷いなく、即答だった。
 その声は、朝の冷たい空気すら真っすぐ切り裂くみたいに響き渡る。

「誰にも評価されない人生かもしれないけど」

 藍は校舎に向かう生徒たちをスケッチし続け、私に藍の視線は返ってこない。

「悔しくても、描く」

 そこでようやく、藍は私を見る。

「描きたいから」

 藍の瞳は、ただ自分の未来を見つめているように思えた。
 誰かの評価とは無関係。
 自分がやりたいことを貫こうとする瞳だなって思った。

「……そっか」

 それで、何になるの?
 評価されなかったら?
 お金にならなかったら?
 好きなことを続けたら、藍の人生の価値は上がるの?
 そんなことばかり考えていた自分の存在が薄くなって、今は藍の未来を受け止められる自分が存在していることが酷く嬉しかった。

「美術関係の学校に進学すればいいのに」
「それは、自分で稼げるようになってから考える」

 藍の視線が、再びスケッチブックに戻る。
 藍の背中は、顔も知らない誰かが決めた査定価格に縛られていない。

「……応援してる」
「ありがとう」

 藍は前を向く。
 窓から差し込む朝の光が、教室の床で淡く揺れ始める。

「心花は?」
「……私?」
「これから、どうするの?」

 すぐには答えられなかった。
 大学、就職、私の将来って言葉だけが頭の中をさ迷って、私の未来はまだ形になっていない。

(今までは、それが怖かったけど)

 決まっていないことが。
 何者になれるのか、まだ分からないことが。
 査定価格は出ているのに、その先の未来だけがぼんやりとしていることが、ずっと怖かった。

「……出版社に採用されるかは置いといて、まずは大学かなって。大学出ないと、何も始まらないと思って」
「……うん、いいと思う」

 藍はスケッチブックを見つめたまま、ほんのわずかに口元を緩めた。
 藍は藍なりに、笑顔を浮かべてくれたんだろうなって伝わってくる。

「心花と一緒、か」
「何が?」
「未来がまだ分かんないってこと」

 未来が分からないと言いながら、藍はどこか楽しそうに見えた。

「藍には、絵があるよ?」
「絵を描き続けることと、これからどうなるかは別でしょ?」

 教室は二階にあるはずなのに、どこか遠くで木の葉が風で転がっていく音が聞こえた。
 季節が過ぎ去っていくっていう気配が感じられて、いつまでも高校生ではいられないんだなぁって実感を与えてくる。

「……でもね、私には好きなものがないから」

 自分で言っていて、どんどん苦しくなっていく。
 それでも、その苦しさも、自分の人生の一部として受け入れられるようになりたい。

「藍みたいに、これが好きって言えるものがないところは違うかな」
「心花だって、マンガ読むの好き……」
「私の好きは、普通の好き」

 口にした『普通』が、寂しさをまといながら落ちていく。

「私は何も続かないし、何かを頑張ってるわけでもない」

 次第に生徒の数が増えてきて、教室にだんだんと笑い声が混ざり始める。
 鞄を机に置く音や、椅子を引く音、ページを捲る音に、ノートに何かを書く音。
 いろんな音が重なり始めて、教室が朝の空気で満たされていくのを感じる。

「自分の好きなものが分かってて、それをずっと続けられる藍のこと、すっごく羨ましい」

 学校に来たばかりのときは、校舎が冷たい空気に包まれていた。
 けど、教室に人が増えていくたびに、暖かな空気を感じられるようになっていく。

「私には、そういうの何もない……」
「私は……」

 私の話を最後まで聞かず、藍がこんな風に自分から言葉を重ねてくるのは珍しいと思った。

「誰からも好かれる心花のこと、羨ましい」

 思いがけない言葉だった。
 藍の視線を追うように、私も校門を通る生徒たちへと視線を向ける。

「高校生になっても、友達の作り方……よく分からないから」

 一瞬だけ、藍の持っていた鉛筆が止まった。
 けれど、すぐに藍はまたスケッチブックに線を重ねていく。

「人間関係下手くそだなーって思うから……絵は、ちゃんと続けたいの」

 私はずっと、自分の『好き』を持っている藍のことを羨ましいと思っていた。
 でも、藍にとっては誇らしいことでもあり、重荷にもなるんだってことに初めて気づいた。

「私、絵しかないから」

 好きなものがあることが、自分の支えになっている。
 絵しかないからこそ、絵を描き続ける。
 それは、私にはない強さだった。

「それでも私のこと、羨ましい?」

 小学生の頃、藍の絵が賞を取った日のことを思い出す。
 教室の真ん中に飾られたその絵を、みんなが輪になって覗き込んだ日のことを。
 みんなが『すごいね』と口々に褒めていて、私も笑顔を作って『おめでとう』って声をかけた。

(……嬉しかったのも本当だけど)

 でも、どうして私じゃないんだろうって気持ちを、ずっと心の奥底に沈めてきたのも本当のこと。
 本音に触れるのが怖くて、ずっと見ないふりをしてきた。
 嬉しい気持ちだけを心の奥底から引き上げて、悔しさは奥底に押し込んだまま今日まで来てしまった。

「……うん、やっぱり羨ましい」

 藍の目が、わずかに見開かれた。

「やっぱりね……」

 喉の奥が苦しくなる。
 それでも、今度は隠したくなかった。
 心の奥底に沈めてきた言葉を、今度はちゃんと拾い上げたいと思った。

「私も、何か欲しかった」

 藍が怒っているのか、悲しいのか、その表情だけでは分からない。
 こういうとき、藍が気持ちを顔に出さないところをもどかしいと思った。
 でも、そんな藍のことを、いまさら嫌いにもなれない。
「私もね」

 藍は視線をスケッチブックへと戻しながら言う。

「心花のこと、羨ましい」
「……え?」
「小学生のときから、ずーっと」

 心臓の音が、どくんと鳴った気がする。
 あくまでたとえでしかないって分かってるけど、心臓が藍の言葉に反応した。

「心花のこと、いいなって」

 そんな話、聞いたことがなかった。
 小学生の頃からずっと友達だったのに、私は藍のことを何も知らなかった。
 藍もまた、私の知らないところで何かを抱えていたということ。

「……高校生にもなって、なんか恥ずかしいね」
「心花が言わせたんでしょ」

 図星すぎて、何も言えなかった。
 私たちはずっと隣にいて、一緒に笑って、言葉を交わし合ってきた。
 それなのに、お互いに『羨ましい』って感情を抱えてきたことだけは、ずっと隠したままだった。
 近くにいるからって、相手のことを全部知っているわけじゃない。
 今になってそんなことを知るなんて、少しだけ可笑しかった。

「……ねえ、藍」
「ん?」

 誰かが友達を呼ぶ声と、私が藍を呼ぶ声が重なる。
 さっきまで二人きりみたいに感じていた空気の中に、いつもの朝が加わってくる。

「その絵、また見せて」
「もちろん」

 藍は嬉しそうに笑いながら、スケッチブックを自分の方へと引き寄せる。
 鉛筆が紙の上を走り出す音を聞きながら、私は藍の横顔を眺めた。

(……ほんと、羨ましい)

 自分の好きなものを見つけて、それを大切にしている藍。
 やっぱり私は、藍のことが羨ましい。

(きっとこれからも、ずっと羨ましいままのかも)

 きっと、藍もそうなんだと思う。
 羨ましいって気持ちは、たぶんこれからもなくならない。

(でも、それでいい)

 藍の人生が羨ましいからって、私の人生がなくなるわけじゃない。
 誰かが持っているものを欲しくなったり、自分にはないものを羨ましく想ったりする気持ちまで、もう無理になくそうとしなくてもいい。

「心花は、本できた?」
「あー……」

 藍が何気なく問いかけた声に、私は曖昧な返事をする。
 私は出版社から声をかけてもらって、自分の人生を本として世に出すことになった。
『LIFE―ライフ―』を利用している同世代の人たちの人生を集めた本に、自分の人生が加わる。
 数字で並んでいた私たちの人生が、今度はそれぞれの物語として社会に並ぶということ。

「心花が変わった理由は分かったから。もう隠さなくても大丈夫」
「あ……うん、ありがと」

 編集者さんの藤井さんに会ったあと、私は藍にすべてを離した。
 出版社から声をかけてもらったことも、『LIFE―ライフ―』を利用していたことも包み隠さず話した。
 あれだけ必死に抱え込んできたのに、言葉にしたら肺の奥にまで空気が行き渡るようになった。

「百田心花さん」
「……藍?」
「私の人生が三千二百円って聞いたとき、どう思った?」

 振り返った藍は、まるで記者みたいな口調で私に問いかけてくる。

「安すぎって、馬鹿にした?」

 心が、ちくりと痛む。
 藍の人生が三千二百円だと知った瞬間、私は確かに安いと思ってしまった。

「……馬鹿にはしてない。でも、安いって思った」

 素直に頭を下げる。

「……ごめん」

 すると藍は呆れたように笑って、私の頭にポンと手を置いた。

「そこ、謝るんじゃなくて笑うとこ」
「うん……でも、数字って怖いなって思ったから」

 査定価格が下がれば不安になって、査定価格が上がれば嬉しかった。
『LIFE―ライフ―』を使ううちに、私は自分の感情まで数字に支配されていったのは事実だった。

「ごめん」

 もう一度謝ると、藍は既にスケッチブックへと視線を戻していた。

「でも、『LIFE―ライフ―』が悪いって決めつけるのも違うんじゃない?」
「……どうして?」
「だって、心花は救われたんでしょ?」

 初めて自分の人生が八十七万円を超えた数字を見たとき、私の人生にも価値があると思えた。
 だからこそ、サイトを単純な悪として終わらせることはできなかった。

「……うん」

 私は、藍の言葉に頷く。

「心花の黒歴史、楽しみにしてるから」
「あ、黒歴史って決めつけてる……」

 自分の人生が本になる。
 それが嬉しいのか、怖いのか、まだよく分からない。
 ただ、心臓の速さだけは今も落ち着いてくれない。

「黒歴史の暴露で許してあげる」
「黒歴史じゃなかったら、許してもらえないの?」
「そうかも」

 あまりにも当たり前みたいに言われて、私たちは思わず笑ってしまった。

「約束ね」
「うん」

 藍は満足そうに頷くと、またスケッチブックに視線を落とした。
 藍が絵に集中し始めると、やることのなくなった私は机の上に置いた鞄に手を伸ばす。
 いつも通りスマートフォンの画面をつけると、そこには見慣れたアプリのアイコンがあった。

「また見てる」
「まだ見てません」
「同じようなもんだろ」

 席に着く生徒が増えてきたと思っていたら、いつの間にか旗嶋くんが私の机の横に立っていた。

「別に悪いことしてるわけじゃないんだから、そんな言い方しなくても……」
「悪いなんて言ってない」
「言い方が、そうだった」

 私が口を尖らせると、旗嶋くんは自分の席に鞄を置きに行った。
 その歩き方にも、いつも通りの気だるさが含まれていて旗嶋くんらしいなと思った。

「担任との面談、終わった?」
「あー……うん、とりあえず大学かなって」
「へえ」
「まだ何をするか決めてないけど……」

 まだ決まっていないという言葉を口にするだけで、不安になっていた頃の自分を思い出す。
 だからこそ、今はそこまで怖くないと思えていることが、なんだか嬉しく思えた。

「旗嶋くんは? 卒業したら」
「知らない」

 あまりにも即答すぎて、私は思わず瞬きをしてしまった。

「……即答なんだ」
「分かんないって言ってるだろ」
「そういうところ、旗嶋くんらしいよね」

 旗嶋くんが苦笑しながら、机の端に手を置いた。

「担任に怒られるから、適当には書いたけど」
「適当じゃないんでしょ?」
「さあ?」

 そのまま自分の席に座るのかと思ったら、旗嶋くんはふと私の手元に視線を向けた。
 机の上には、『LIFE―ライフ―』を開く前のスマートフォンが置かれている。

「……見ないの?」
「うーん……」

 旗嶋くんは、それ以上何も言わなかった。
 スマートフォンを取り上げることもしないし、見るなとも言ってこない。
 ただ、私の手元を一度見ただけ。

「……旗嶋くん」
「ん?」
「『LIFE―ライフ―』、やめてよかった?」

 旗嶋くんはようやく席に腰を下ろすと、鞄の中を探りながら授業に必要なものを机の上に置いていく

「……前は、何も決まってないことがなんか……俺には何もないみたいに思えてた」

 もっと簡単な答えが返ってくると思っていた。
 うんとか、良かったとか。
 そんな一言で終わるものだと思っていたのに、旗嶋くんは私の問いに向き合うことを選んでくれた。

「でも、今は、これから決めればいいんじゃないかって思えるようになった」

 私も、ずっとそうだった。
 大学も決まっていなければ、やりたい仕事も、どんな風に生きたいのかも分からない。
 それなのに、『LIFE―ライフ―』は私の人生にひとつの数字を示してくる。
 未来は何も決まっていないのに、値段だけは決まっている。
 その違和感が、私も旗嶋くんも引っかかるようになった。

「……『LIFE―ライフ―』やめて、怖くない?」

 前の席に座る旗嶋くんに向かって、声を向ける。

「……後悔、してない?」
「最初は、ちょっとだけ後悔した」

 意外な答えが返ってくるのと同時に、旗嶋くんが振り返った。

「でも、すぐにどうでも良くなった」

『LIFE―ライフ―』をやめた日のことを想像しようとしたけど、すぐにはできなかった。
 私が『LIFE―ライフ―』をやめるということは、ランキングから自分の名前が消えということ。
 自分の名前が並んでいた場所から、自分がいなくなると考えるだけで、心に空白ができるような気がする。

「『LIFE―ライフ―』のない毎日って、思ってたより普通だったから」

 旗嶋くんの喋り方は淡々としているのに、その言葉には優しさが込められている。

「サイトやめても、俺の人生はちゃんと続いてた」

 拍子抜けするほど普通で、拍子抜けしちゃうほど真っすぐな言葉だった。
 旗嶋くんの言葉の素直さに、私はどう返せばいいのか分からなくなる。

「……百田も、そんなに考え込まなくていいと思うけどな」

 旗嶋くんは振り返ったまま、私の顔を見た。

「百田は、前とは違うんだから」
「……そうかな」

 今までの私なら、誰かに答えを教えてほしかった。
 どうすれば、価値のある人生になるのか。
 何をすれば、高い値段がつくのか。
 どんな未来を選べば、後悔しないのか。
 ずっと正解を探していて、今だって正解が見つかったわけじゃない。
 それでも、自分で選んでみたいと思った。

「……旗嶋くん」

 これからも、『LIFE―ライフ―』を見ると思う。
 数字が気になることだって、誰かと比べてしまうことだってあって、きっとある。
 でも、それが私のすべてじゃない。

「……ありがと」
「別に、何もしてないけど」
「なんとなく、お礼言いたくて」
「変なの」

 そう言って、旗嶋くんは黒板の方へ向き直った。
 チャイムが鳴る前の、教室のざわめきがゆっくりと戻ってくる。

(今日も、特別なことは何もない)

 いつもと変わらない一日が、いつもと同じように過ぎていく。

(他人の人生を見れば、自分がどう生きればいいのか分かると思ってた)

『LIFE―ライフ―』には成功している人も、夢を持っている人も、何かを頑張っている人もいる。
 そんな人たちを見て、自分もこんな風に生きればいいと思っていた。
 でも、他人の人生を見たところで、自分の人生の答えが出るわけじゃない。

(……私の人生は、これから決めればいい)

 ふと、教室を見渡す。
 担任との面談期間のせいなのか、あちこちから進路の話が聞こえてくる。

(……みんな、最初は怖い)

 大学の名前や、専門学校の話。就職先の話もあれば、留学の話。
 みんな、それぞれのこれからについて言葉を交わし合っている。
 将来が決まっている人の方が、もしかすると少ないのかもしれない。
 何になるのか分からないまま、それでも自分の明日のために学校へ来ている。
 そう考えると、ふと肩が軽くなるのを感じた。

(私には何もないと思ってたけど)

 何もないのではなくて、まだ決まっていないだけだった。

(十七歳の私は、まだ何も決まってない)

 窓の外に目を向けると、いつもの青い空が広がっていた。
 藍が空の色は毎日変わると言っていたけど、私はそんな違いなんてよく分からない。
 曇っていたり、雨なら分かりやすいけど、晴れた日の空の青さが昨日と今日で違うなんて私には分からない。
 いつもより長く空を見つめていると、机の上のスマートフォンが着信を知らせる。


査定価格1位 ¥31,800,000 17歳/女子
査定価格2位 ¥2,040,000 17歳/女子
査定価格3位 ¥1,670,000 17歳/女子
査定価格4位 ¥1,480,000 17歳/男子
査定価格5位 ¥1,290,000 17歳/男子
査定価格6位 ¥1,150,000 17歳/女子


 机の上のスマートフォンを手に取る。
 ランキングを確認するのは、もう癖になっていた。
 指先に触れる画面の冷たさも気にせず、私はランキングをスクロールする。
 ひとつ、またひとつと、自分の名前を探していく。

(……あった)

 数字が上がったわけでも、何かを成し遂げたわけでもない。
 ただ、自分が投稿した人生がそこにある。
 それだけで、息が吸い込みやすくなる。

「……明日、いくらになってるかな」

 そんなことを考えながら、私はまた新たな人生を投稿した。
                                                         【了】