ショートカット・スウィートケーキ

 千昭と九条さんのおかげで、なんとか委員会にはギリギリ間に合った。荒い息を整えながら席に座ると、九条さんが私のほうを振り返る。

「間に合ったね!」

 と、ひそひそ声で言いながらピースする九条さんに、私は笑って頷き返した。
 教卓の前に、三年生の実行委員長と副委員長が立つ。委員長がプリントを手に持ち、そこへ視線を落としながら口を開いた。

「今日は、各クラスで使える備品の数を確認してもらおうと思っています」

 私たちはその指示に小さく頷く。副委員長がそれに補足する形で、

「各クラス、役割を割り振ってあるので、プリント見て各自移動してください」

 と言った。私は自分の机の上に置かれているプリントを見る。一年三組は、体育館横にある倉庫が割り当てられていた。会議室に、椅子を引く音や移動を始める足音が響き始める。

「網倉さん、俺らも行こっか」

 隣の席の佐々木くんに声をかけられて、「うん」と私も頷いてから、スクールバッグを肩にかけて椅子から立ち上がった。そこへ九条さんが駆け寄って来る。

「五組も倉庫のチェックなんだ。一緒に行こ」

 自然に絡められる腕に驚いている間に、九条さんに引っ張られる。少し後ろから、千昭が佐々木くんに「よろしく」と自己紹介している声が聞こえてきた。


 倉庫の扉を開けると、色々なものが雑多に置かれていた。――と言えばまだ聞こえは良いけれど、実際にはあらゆるものが無造作に押し込まれていて、私と九条さんは顔を見合わせてから一度だけ苦笑いを向け合った。

「ひとつずつ出して、確認していこうか」
「そうだね。もー、こんなにぐちゃぐちゃに入れてダメでしょ~!」

 まるでお母さんの小言みたいに九条さんは文句を言いながら倉庫の中に入っていく。私もその背中を追おうとしたときに、肩を掴まれて引き止められる。振り返れば千昭がいて、「九条」と奥にいる九条さんを呼んだ。

「備品出すのは俺らがやるから、九条は翠と一緒に数の確認して」
「えー、結構大変そうだよー?」

 九条さんもこちらを振り返る。

「いやいや、ここは運動部に任せてくださいよ」

 佐々木くんの言葉に「そうそう」と千昭が頷く。

「役割分担ってやつ。じゃ、翠もよろしく」
「あ、うん。ありがとう」

 お礼を言うと、千昭は佐々木くんと一緒に倉庫の奥へと入って行った。入れ違いで九条さんが戻ってきて、

「かっこいいねぇ、男の子たち!」

 と、目を細めて肩を竦めた。私もそれに「そうだね」と笑って返す。

「じゃあ、備品チェック頑張ろう」
「うん!」

 元気な返事とともに、九条さんが私に掌を向ける。それの意味が分からなくて、私が「うん?」と首を傾げると、「こうするんだよぉ」と九条さんが私の手を取って、自分の手にハイタッチをするように重ねた。

「頑張ろうっていう気合い!」
「あ、なるほど! うん、頑張ろ」

 私はもう一度、九条さんの手に自分の手を当てる。軽い音が響いて、私たちはくすくすと笑い合った。

「なに笑ってんの?」

 昨年の文化祭で立て看板として使ったらしい長いベニア板を抱えて倉庫から千昭が出てくる。笑い合っている私たちを見て不思議そうに首を傾げている。

「いや……なんだか青春だなって思って!」
「なんだそれ」
「あたしは翠ちゃんの気持ち分かるー! だってこういう準備も含めて、今しか出来ないじゃん?」
「そうそう、そういうこと!」

 私が言いたいことをすべて九条さんが言ってくれた。こくこくと何度も頷く。

「まぁ、そう言われたら、倉庫の中がくそ暑くても許せるような気がしてくるわ」

 千昭が制服の袖で汗を拭う。後から出てきた佐々木くんも「暑すぎてやばい」と、額に大粒の汗を浮かばせながら戻って来た。

「あっ! あたし、ハンディファン持ってる!」
「わ、私は下敷きなら……!」

 九条さんがスクールバッグを漁る横で、私も下敷きを取り出す。九条さんはパステルピンクの可愛いハンディファンで、私は無地の下敷きでパタパタと千昭と佐々木くんを扇ぐと、ふたりは「涼しい」と笑ってくれた。
 夏休み直前。内海先輩に、「仕事を抱え過ぎ」、「お人好しだ」って少しだけ怒られたことを思い出す。

――蓋を開けてみたら翠しか準備してねーみたいなことになるなってこと。

 先輩は少しだけ心配そうな目で言ってくれたけど……。
 私はそっとみんなの顔を見る。「もう一回行ってくるわ」って立ち上がる千昭と佐々木くん。「頑張れー!」と笑顔で送り出す九条さん。
 そんな心配なさそうですって、今度、ケーキ食べに行くときに教えたら、先輩、安心してくれるかな。
 そう思いながら、私も「頑張れ」と千昭たちの背中に声をかけた。