君の生きる理由になりたかった



時は流れ、四月になった。
 
花見をしに、祈里とあの丘に来ていた。桜は満開に咲き誇っている。
 
この場所を忘れたいことを忘れるために来る場所じゃなくて、忘れたくない思い出を忘れないために来る場所にしたい。だから、私たちは変わらずここによく訪れていた。
 
レジャーシートを広げ、あらかじめ持ってきた数々のお弁当を開けていく。サンドウィッチや卵焼き、からあげ、ミートボールなどなど、いろんなおかずがある。


「すげえ、ぜんぶ千鶴が作ったの?」

「そうだよ。張りきって早起きしちゃった」

「うまそう」
 

祈里に箸を渡すと、目をきらりと輝かせた。それにまた嬉しくなって笑みがこぼれる。
 
いただきます、と同時に手を合わせた。それぞれ、食べ物をつまんでいく。


「んっ、おいしい」

「すげえうまい」

「でしょ。よかった」
 

顔を見合わせて、二人で微笑みあった。
 
他愛もない話に花を咲かせる。課題が多くて大変だとか、この間見たテレビが面白かったとか、今度行きたいところとか。
 
そういえば、立花さんと再会したあと、すぐに祈里に会いに行って話をした。祈里は、私の決断を責めることなく、「がんばったな」と褒めてくれた。それに安心して、少しだけ泣いてしまった。


「……あのさ、千鶴」

「……ん?」
 

お弁当を食べ続ける箸を置いて、真剣な顔で祈里は私を見つめた。不思議に思って、こてんと首をかしげる。
 
祈里は少しの間私から目をそらしたあと、もう一度私の方を見た。その頬が少しだけ赤く染まっている気がして、とくん、と胸が高鳴る。まるで、恋を知らせるかのような音だった。


「俺、千鶴のことが好きだよ」

「……えっ」
 

予想外の言葉に、目を見開く。


「ちゃんと特別な想いがある、本当の恋人になってほしい」

「……っ!」

「ずっとそばにいるっていう、約束が、ほしい」
 

祈里の瞳が、不安げに揺れている。胸がいっぱいになって、笑顔があふれた。その表情も、ちゃんと言葉にしてくれるところも、ぜんぶ好き。ぜんぶ愛おしい。
 
私は、思いきりうなずいた。


「うん……っ!私も、なってほしい。私たちの間にちゃんと愛がある、恋人に」

「……愛、か」
 

しみじみと真面目な顔でつぶやく祈里に、急に恥ずかしくなってしまう。


「ちょ、ちょっと、照れるから復唱しないでよっ」

「はは、特別な想いの答えを見つけたって思っただけ」
 
心底嬉しそうに笑う祈里に、なんだか照れくさくなる。それでも、あふれる笑みが止められなくて、声をあげて笑ってしまった。


「祈里に出会えてよかった」
 

今、祈里に伝えたくなった。ありあまるほどの感謝を、この一言に凝縮して伝えたい。
 
私の想い、ちゃんと伝わってるかな?


「俺もだよ、千鶴。千鶴がいなかったら、今ここにいないかもしれない」

「それを言うなら、私も!ありがとう、私のこと救ってくれて」

「俺のセリフだ、それ」
 

顔を見合わせて、もう一度微笑み合う。
 
その瞬間、少しだけ強い風が吹いて、桜の花びらが私たちに降り注いだ。
 
すごくすごく、幸せだと思った。笑みを浮かべて私を見つめている祈里が、どうしようもなく好きだ。大切で仕方がない。
 
もう私は、祈里以上の人になんて出会えないだろう。
 
私には、祈里しかいなかった。祈里じゃないとダメだった。祈里も、同じかな。もしそうなら、私はまた幸せを感じるだろう。
 
でも不思議と、そうなんだと思えてしまう。
 
重なった視線に、胸が高鳴るのを感じた。

──そして、陽菜がいなければ、私たちはきっと出会えなかった。陽菜はずっと、私たちの救世主でいてくれたのだろうか。
 
それなら、私も陽菜の想いを受け継いでいこう。祈里はもちろん、私に寄り添ってくれた人たちに。


「綺麗だな、桜」

「本当に」
 

一人じゃダメでも、二人ならきっと乗り越えられる。
 
祈里がそう思わせてくれた。
 
ずっとそばにいるという約束をくれたのだから、もうきっと大丈夫だ。
 
ねえ、祈里。
 
私の生きる理由になってくれて、ありがとう。