君の生きる理由になりたかった



そして、あっという間に迎えた修学旅行。茂木以外のメンバーは、私も含め自己主張が少ないため、修学旅行の計画はほとんど茂木の意見のみで決まった。それに誰も反対はせず、「いいんじゃない?」と流し続けた結果だ。話すのが大好きな茂木にとっては、さぞかし苦しい時間だっただろう。

一日目は、全体行動で京都や奈良の資料館や博物館を回り、歴史の勉強に徹した。全体行動では、先生や係員の話を聞いていればいいだけなので、特に人と関わる必要がない。私にとっては、かなりありがたい時間だ。

むしろ、二泊三日すべて全体行動で構わないし、なんならそっちの方が嬉しいのだけれど、大多数の人たちがそれは嫌だと口をそろえて言う。それに先生たちも、班行動の方が自分たちも自由に回れて快適なのだろう。話すのが得意な人たちはうらやましい。私みたいに、こんなに悩むことなんてないのだから。もちろん、全体行動は一日目だけだ。二日目、三日目は班行動である。
 
一日目はあっという間に過ぎて行った。そして迎えた二日目は、私たち六班は京都でお寺や神社を見て回ることになっている。金閣寺を先に見てから、今度は清水寺へと向かっている最中だ。


「ねえ結城さん、清水寺まで遠くね?」

「あっ、うん、そうだね」

「九月も終わりなのに、なんでこんな暑いんだろ。坂道ばっかで疲れるー」


弱音を吐きながら、謎に私に話しかけてくる茂木に、私は適当に返事をする。たしかに、茂木の言うことはもっともだ。運動が苦手な私にとって、この急な坂道はかなりきつい。なんでこんなことをしなくてはならないんだろう。本日何度目かのため息をつく。


「あっ、帰りにお土産屋さん寄ろうぜ!今は寄らなくていいっしょ、ここ。さっさとお寺見て、さっさと戻りたい」

「いいね、お土産屋さん」

「だろー?ナイスアイディア、俺」


はは……、と苦笑いを浮かべて茂木に返す。この通りのお土産屋さんに寄るのは、清水寺に来る醍醐味のひとつじゃないかと思ったけれど、あえて言わないでおいた。言ってしまったら、きっと茂木に恐ろしいくらい一方的に話しかけられる。そうなると、言い方は悪いけど少し面倒くさい。


「あっ、着いたんじゃね?」
 

茂木の声に顔をあげると、ようやく大きな階段が見えてきた。一度立ち止まって、ふうっと一息つく。平日だというのにたくさんの観光客がいて、人混みが苦手な私はまたため息をついた。


「うおー、すげえ!早く行こうぜ!」
 

私たちを振り返ってそう言ったと思えば、茂木は一人走って階段を駆け上がっていく。


「え、ちょ、なんで」
 

いや、普通走っていく?ちょ、ちょっとは空気読んでよ。桜木さんも柳瀬も、うんざりした顔してるよ? だれも走って行かないよ、茂木以外。
 

……もしかして、むしろ茂木のペースに合わせられない私たちが空気を読めていないのか?
 
あー、もうダメだ。茂木といると自分のペースを乱されてしまう。そう思っているのは、私だけじゃないに違いない。柳瀬も桜木さんも、同じことを思っているだろう。


「おーい、三人とも早く来いよ、おせえよ」
 

……茂木が早すぎるんだよ。
 
そう言いたい気持ちをぐっと抑えて、私たちは手を振っている茂木のもとへ向かう。


「遅かったなあ」
 

と、笑う茂木には、悲しいことに誰も反応を示さなかった。茂木は楽しそうに振る舞っているが、なんとなくそろそろ限界なんだろう。ずっと笑顔だったのに、だんだん表情が固まり、曇っていく。


「なんか反応示せよ、虚しくなるだろ俺」
 

口調だけは明るいが、表情は完全に冷めきっている。

茂木なりに頑張ってくれたんだよね。なんかごめん。

という、茂木を慰める言葉が頭に浮かんできたが、かえって茂木を傷つけてしまいそうなので、何も言わず口をつぐんだ。私、誰も傷つけないように生きたいの。
 

それから私たちは、鳥居の近くで、観光客の人たちに写真を撮ってもらった。先生から、各地で写真を撮ってくるように、と言う指示があったからだ。一応、四人で写った写真を見せてもらったものの、笑ってピースをしているのは茂木だけで、私を含めた三人は、特に笑うこともせずなんとなくピースをしているだけだった。

茂木は、「お前ら全然笑ってねえじゃん!」とツッコミを入れていたが、私が苦笑いで返すだけだったので、寂しそうな顔をしていた。あとの二人は、私が驚くくらいなんの反応も示さない。


「なあ、もっと奥まで行かねえ? 入場券買うようだけどいい?」

「うん、大丈夫。柳瀬も桜木さんも、それでいい?」

「……うん、私は」
 

桜木さんから反応が返ってきて、思わず驚いてしまった。

か、返してくれた。よかった、桜木さんだけでも反応を示してくれれば、私も少しは安心できる。茂木はというと、そんな私たちなど見えてすらいないように、すでに入場券を買う列へと並んでいた。私たち三人も、慌ててそちらへと向かう。


「茂木くんってなんていうか……、かなりの自由人だよね」

「あはは……本当にね」

「ついていくの難しいかも、私」
 

桜木さんには、そう耳打ちをされた。やっぱりそんなふうに思っていたのは、私だけじゃなかったんだ。茂木は私たちとはタイプが違いすぎる。

逆に茂木にとっても、私たちは正反対のタイプであるはずだから、いくら自由人とは言っても、この時間はかなりしんどいはずだ。なにかしてあげたいと思う反面、どうすればいいか分からない中途半端な私に嫌気がさす。
 
入場券を買った私たちは、そのまま流れに沿って奥まで進んだ。ちょっとした高台から見下ろす、色づき始めた葉をつける木々の景色が綺麗だったので、一枚写真を撮った。すぐそばから、「うおおすげー!」と子供みたいにはしゃぎながら何枚も写真を撮る茂木が見えたので、苦笑いを浮かべてしまった。