君の生きる理由になりたかった

 

変わらない日常を過ごしているなかで、時は過ぎ八月に差しかかった。その日、たまたま利都の家の前を通りかかると、利都らしい人影を見つけた。

夏休みはたしか講習会があるとかで、まったくと言っていいほど利都の顔を見れていなかったので、わくわくして胸が高鳴る。小走りで、利都に近づいた。


「利都!」
 

俺の声で、利都が振り返る。その顔を見て、思わずぎょっとした。
 
泣きはらしたあとの、腫れぼったい目。焦ったような、血の気のない顔色。少しボサボサの髪。こんな暑いというのに、長袖長ズボンを着ており、そこから垣間見える青いアザ。
 
だれだ。俺の知ってる利都じゃないような気がしてしまう。だけど、こんな利都を放っておくわけにはいかなくて、なるべくいつも通りに声をかけた。


「大丈夫?」

「え……」

「ねえ、今から遊びに行こうよ」
 

そこで、利都の話を聞いたりすればいい。それより、利都と遊びたい。せっかく会えたんだし、一日くらい大丈夫だろう。
 
そう思っていた俺がバカだった。利都はわなわなと唇を震わせ、鋭い目で俺を見た。え、と情けない声が漏れる。


「もう僕に構うな……!!」
 

俺を突き放すように利都は叫ぶと、どこか遠くに走って行ってしまった。その姿を、呆然として見つめる。
 
なにが起きたんだろう。この状況を理解するのに、少しだけ時間を要した。利都が、俺を拒絶した。なんで? 遊びに誘ったのは、そんなに悪いことだった?
 
冷や汗が背中を伝う。あんな姿の利都も、あんな感情的な利都も、ぜんぶ初めて見た。絶対に、なにかがあったんだ。それに気づけないで、いつもみたいに声をかけたのは、まちがいだった? でも、ただ俺は、利都と話したくて……。
 
それから、利都に避けられるようになった。夏休み中はもちろん会うことはなかったし、帰りも一緒じゃなくなった。利都は俺に声をかけられるより前に、先に教室を出て行ってしまうし、以前よりももっと勉強をしている時間を増えていったような気がする。
 
このときほどではないけれど、利都はいつも元気がなく疲れた顔をしていた。目の下にはいつもクマがあったし、それなのに変わらずずっと勉強をしていた。
 
俺も声をかけられずに、時間だけが過ぎて行った。利都とまた話したいとか遊びたいとか、そんなことは思いつつ、俺はほかの友達と一緒に帰るようになった。そして、放課後は彼らと時間をつぶす。
 
そんな日々が続いた秋、俺は母さんから、利都が自ら命を絶ったことを告げられた。
 
目の前が真っ暗になって、絶望に包まれるような感覚がした。