君の生きる理由になりたかった




それから迎えた五限目。


「じゃあ、修学旅行の班決めするぞ」


担任の先生の声が響きわたると、教室中がわあっと話し声で包まれた。そういえば、そんなことをするって言っていたっけ。今日の昼休みに、実来と梨紗もそんな話をしていたような気がする。

修学旅行は九月の下旬に行われ、行先は京都と奈良。男女別でくじを引いて、そこに書かれた番号が同じ人が同じ班になるらしい。もちろん、その数字が班番号だ。そして、男女二人ずつの全十班。

十班もあれば、実来か梨紗のどちらかと同じ班になるのは厳しいだろう。話したことのない女の子と同じになっても構わないが、どうしてもその人との人間関係を構築するのに時間がかかってしまうので、話せる人との方がありがたい。男子とは、同じ班になっても話すことはほとんどないと思うから、別にだれでもいいのだけれど。

大前提、私は修学旅行などの泊まりで行う行事が苦手だ。理由はもちろん、一日中休みなく、誰も傷つけないように細心の注意を払わなければいけないから。普段なら、家で自分の部屋にいるときは一人なので、なにも考える必要がない。それなのに、修学旅行だけはちがう。考えるだけで、とてつもなく憂鬱だ。


「はい、女子からくじ引いてけー。終わったら次は男子な」


先生の声とともに、女子が次々と立ち上がって教卓の前まで行き、くじを引いていく。私もその列にならってくじを引いた。手に取った小さな紙を開くと、そこに書かれた数字は6。どうやら、私は六班らしい。

「ねえねえ梨紗、何班だった?」

「三班」

「待って、一緒! 私も三班!」

「ええっ、やった!」


席に戻る途中で、ハイタッチをする実来と梨紗の姿が見えて、思わずため息をついた。

……よかったね。

そう思っているはずなのに、複雑な思いでいっぱいだった。二人の修学旅行は、きっとこの時点で楽しいものになるにちがいない。だけど私は、一から修学旅行のためだけに班の人と関係を構築しなければならない。まあ、想定済みだったのだけど。そう心の中で強がるのと同時に、寂しさがどっと襲ってきて、思わず唇をかんだ。

男子がくじを引き終わったのを確認して、先生は声をかけた。


「これで全員くじ引いたかー?それじゃあ、班ごとに集まって計画を立ててくれ。授業ではこの時間しかとらないから、あとは各々で決めるように」
 

先生はそれだけ言って、教卓のそばの椅子に腰かけた。

みんなが次々と立ち上がっていくのを見ながら、私もゆっくりと立ち上がった。誰が同じ班なのかも分からないので、あたりをきょろきょろしていると、「六班の人だれ?」と大きな声で言う人の声が耳に入ってきた。なんとなく嫌な予感に駆られながら、声の持ち主のところへ歩いていく。


「あっ、もしかして結城(ゆうき)さん六班?」

「うん。そうだよ」

「おー。あとは誰だろ」


……やっぱり。嫌な予感は見事に的中した。

茂木(もてぎ)と同じ班なのか。茂木はかなり明るく、いつもクラスの中心にいるような人だ。男子とは話すことはないと思っていたけれど、茂木は問答無用で私に話しかけてくるだろう。もちろん、私が特別ってわけではなくて、茂木はそういう人だから。みんなと仲良くしたいって、そういう思考の人。


「おっ、これで全員?」
 
それからすぐに、桜木(さくらぎ)さんと柳瀬(やなせ)が私たちのところに来た。同じ班なのだろう。

桜木さんは、茂木とは反対にかなり静かな女の子だ。多分、私よりも静かだと思う。前に機会があって話したときには、意外と話しやすいなと思ったので、関わるにしても心配はいらないかもしれない。ある意味ラッキーだったのかも。

それから、柳瀬も静かな性格だ。私が柳瀬に抱いているイメージとしては、〝何を考えているのか分からない〟というもの。もちろんまったく悪い意味じゃなくて、なにか人と一線を引いているような感覚がするのだ。なにかこう、失礼かもしれないけれど、私と少し似たような空気をまとっているような。


「じゃっ、よろしく!えーっと、桜木さんと、結城さんと、柳瀬」

「こちらこそ」


茂木の明るい声に、感じが悪くならないようにうまく笑みをつくって返す。桜木さんはうなずくだけで、柳瀬はなんの反応も示さなかった。だからこそ、少し不思議に思って、私は柳瀬に向かって同じような笑みを貼り付けた。


「えっと、柳瀬もよろしくね」


そのとき、初めて柳瀬と目が合った。ぱっと目に入った、まるで透きとおっているような、淡い茶色の瞳が綺麗だと思った。そんな私とは対照的に、柳瀬は私を見て少し驚いた顔をした……ような気がして、思わず首をかしげる。すると柳瀬は、はっとしたような顔を一瞬だけ見せてから、すぐにいつもの少し不愛想な表情に戻った。そして、私から少しだけ目をそらす。


「うん」
 

それから柳瀬は、私にしか聞こえないくらいの小さな声で、それだけつぶやいた。