君の生きる理由になりたかった



「陽菜が死んだ日から、笑えなくなったの」

「……うん」
 

祈里の瞳の奥がかすかにゆれている。
 
あの日々のことを、忘れた日なんて一日もない。


「陽菜がいなくなっちゃったのが、すごいショックだったからかもしれない。でも、私はもう笑えなくてもいいかなって思ってる……」

「前も言ったけど、俺は千鶴の笑顔が見たいって思う」

「そう言ってくれてうれしかった……っ。うれしかった、だけど……!」
 
でも、私には許されちゃいけないことがある。
 
また繰り返そうとした、過ちがある。

「陽菜を殺したのは私なの……っ!!私だけは、陽菜のそばにいて、味方になってあげなきゃいけなかったのに、私はそれができなかった……!見て見ぬふりして、挙句の果てにつられて悪口言って……!」

「千鶴……」

「私がトドメを刺した……!私が陽菜を殺したんだ……っ‼」
 

わああっ、と声をあげて私は泣き崩れた。
 
こんなに泣く権利なんてない。祈里の優しさに甘えられるだけの権利もない。分かっているのに、あふれてくる涙を止められない。
 
もし、早く陽菜のいじめに気が付いていたら。
 
私が立花さんたちに、やめてって言えていたら。
 
ずっと陽菜のそばにいて、話をきいたりできていたら。
 
放課後だけでも、一緒にいることができていたら。
 
変わらず、陽菜とうまく接することができていたら。
 
陽菜は、死なずに済んだのかもしれない。


「私が笑えないのも、それも相まって実来たちとうまくできなかったのも、ぜんぶ私が陽菜を殺した罰だと思ってる……っ」

「千鶴、それは……」

「私に笑顔が戻ったら、それは陽菜を忘れることになっちゃうのかなって思うと怖いの……っ」
 

だから、笑えなくていいと思っていた。笑顔がなくていいと思っていた。
 
でも、笑顔があればとも何度も思った。笑顔があったらこんなに苦しまなくて済んだのかな、なんて考えたこともたくさんあるけれど、あのときの陽菜の苦しみとは比べ物にならないだろう。


「私は許されちゃいけないことをしたの……っ!幸せになっていいはずがないって、分かってるの……っ!!」
 

こんなに深い苦しみを与えておいて、どうやって自分だけが幸せになれるのだろう。
 
許されちゃいけない罪を背負って、私はこれからも生きていかなきゃいけない。
 
生きていていいのかすら、ずっと分からなかった。
 
でも、祈里が生きていてほしいって言ってくれた。だから、ここにいようと思えた。
 
だけど、本当に私はここにいていいのかなって、どうしようもなく考えてしまうのだ。


「今朝、お父さんとお母さんが喧嘩してたの……っ。それで私、うまく実来たちと会話できなくて……怒らせちゃった」
 

それだけが原因じゃないことは分かっている。日ごろの私の行いが全部を物語っていたのだ。実来たちが私に怒りをぶつけることになったのも、ぜんぶ私のせい。


「陽菜、戻ってきてよ……っ」
 

どうして、そんなことを願ってしまっているのだろう。
 
こんなに矛盾だらけの自分、だれにも見られたくない。


「千鶴、ごめん……」
 

聞いたことがないくらい、祈里の声は弱々しかった。
 
どうして祈里があやまるのか、私にはさっぱり分からなかった。