陽菜とは、物心がついた頃からずっと一緒だった。家が近所で、家族ぐるみで仲が良かったので、お正月やお互いの誕生日、お盆やクリスマスなど、お祝い事もすべて一緒に過ごしていた。
陽菜は、幼なじみであり私の親友でもあって、憧れの存在でもあった。フレンドリーで誰にでも分け隔てなく接する性格で、頭もよく運動もできる。それに自分の芯もしっかり持っているから、ブレない性格でもあった。
いわゆる、非の打ちどころのない女の子ってやつだ。おまけに、容姿端麗で見た目もすごくかわいい。
陽菜には友達が多かったし、告白だって何度も受けていた。でも、そのたびに陽菜は告白を断っていた。まだそういうのには興味がない、と言い張って。
人見知りでなかなか人と仲良くなれない私を、いつも陽菜は持ち前の明るさで助けてくれていた。私を連れて積極的にいろんな人に話しかけに行って、一緒に仲良くなったり。だから、私の友達は必ずと言っていいほど、陽菜とも仲が良かった。
「千鶴ー、次移動教室だよ」
「ごめん!今行くからちょっと待ってて!」
「もー遅いよ。早くー」
「わっ、ごめんってば!」
ドアのそばに立って、少し遠くから陽菜は私に声をかける。私はと言うと、教科書が見当たらず、ロッカーをがさごそと漁っていた。その様子を、陽菜があきれたように見つめている。
「なにしてんのー?」
「……教科書が見つからない」
「またー?」
「そんなに頻度は多くないよ」
「この間も言ってなかったっけ?」
「あ、あれは家にあった!」
失くし癖が直らない私を、陽菜は困ったように見ている。高校生になった今は、あのころより頻繁にものを失くしたりしなくなった。
あれ、でもちゃんと前回はロッカーに入れたはず。それなのにないとか、私が悪いんじゃなくて、もはや教科書が逃げ出しているとしか考えられない。
そのとき、ロッカーの奥に見慣れた教科書を発見した。まさに、私が今探していたやつ。
「あっ、あった!」
「よかったねー、ってなにそれ……」
「うわあ、曲がってる……」
ぐにゃりと、変なところで教科書は曲がっていた。奥に押し込めるように入っていたから、当然かもしれないけど。
……おかしいな、ちゃんと並べて置いておいた気がするんだけど。
「なんでそうなるのよ」
「わ、分かんない……」
「千鶴ってなんだかんだ抜けてるよねー」
「そんなことないし……!」
あはは、と楽しそうに陽菜が笑う。それにつられて、私も声をあげて笑った。
「ほら、遅刻しちゃうよ」
「ごめんごめん! 行こう!」
「世話が焼けるなあ」
やれやれ、とでも言いたげな素振りを見せる陽菜だけど、その口角は上がっているのを隠しきれていない。だから、それを指摘せずにはいられなかった。
「口角上がってるよー、陽菜」
「あっ、うるさいな。もとはと言えば千鶴が教科書失くしたのが悪いんだよ」
「なんで!?」
口ではそういうけど、声をあげて楽しそうに笑っている陽菜に、私まで楽しい気分になってしまう。
廊下を歩きながら、私たちはいつも通りおしゃべりに花を咲かせる。不意に、陽菜が「あっ」と小さく声をあげた。
「なに?」
「思い出した、千鶴もうちょっとで誕生日でしょ?」
「うん、そうだけど……?」
にこにこと、上機嫌な様子で陽菜は私を見つめる。そう、あと二週間くらいで私の誕生日だ。
なにを考えているか分かりやすい陽菜だから、きっと私の誕生日会とかプレゼントとか、そんなことを企画しているのだろうか。
「今年も、私たちでお誕生日会開こうと思ってるんだけどね」
「本当に!?やったー、楽しみ」
「ダメダメ、ここからが本題だから!」
ふふん、と得意げに陽菜は鼻を鳴らす。
「今年は、二人で出かけるのはどう?」
「出かける?二人で?」
「もちろん、お誕生日会もやるよ。でも、それは夜にね。お昼には、二人でゆっくり出かける!」
友達と二人で出かけるなんて、まだしたことがなかったなと思い出す。陽菜と出かけるにしても、たいてい陽彩ちゃんやその家族も一緒だったし。
陽菜と二人きりで出かけるなんて、想像しただけでわくわくする。陽菜の提案に、私は大きくうなずいた。
「うん、行く!行きたい!」
「やった。千鶴も十五歳だもんねー」
「陽菜だって今年で十五歳でしょ」
「私の誕生日はまだまだだもん」
私の誕生日は七月で、陽菜は三月と早生まれなのだ。半年以上私の方が早く生まれたはずなのに、お姉さんっぽいのはもちろん陽菜の方。生まれるスピードと実際の立ち位置はまったく比例しないなと、つくづく思ったりする。
「じゃあ、千鶴はどこ行きたい?」
「えー? 駅前のショッピングモールとか」
「いいね、じゃあそこで誕生日プレゼント買ってあげるよ」
「本当に?高いの選んじゃお」
「あっ、性格悪いよ千鶴」
顔を見合わせて、また二人で笑い合った。
こんな幸せで、なんでもない日々がこれからもずっと続いていくんだと思っていた。
だけど、そんな期待はあっけなく粉々に打ち砕かれることになる。
