今朝は、言い合いをしているかのような声で目が覚めた。嫌な予感にさいなまれながら、支度をしておそるおそる声がするリビングに顔をのぞかせる。
そこでは、普段温厚で喧嘩も全くしないようなお母さんとお父さんが、お互いに感情をぶつけ言い争いをしている様子だった。
「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」
「仕方ないだろ、急に決まったんだし」
「それでも、でしょう?どうして帰ってきてから報告してくるの?」
「あーだから、忙しかったんだってば」
「忙しいで片付けないでよ、こっちは千鶴のこともあるのに……」
「千鶴に全部押し付けるようなこと言うなよ」
「そんなこと言ってない!元はと言えばあなたが悪いんでしょう!?」
「だとしても疑ったりとかするなよ!」
ああ、そういうことかと、二人の会話を聞きながら思う。
つまりは昨日、お父さんが家に帰ってこなかったことが原因だ。多分、お父さんが帰ってきたのは早朝なのだろう。お父さんがお母さんに帰りが遅くなることや、何をしているかのいわゆる報連相をしていなかったから、お母さんが怒って何をしていたか問い詰めているのにちがいない。
でも、お父さんに限って浮気とかそんなことはありえないはずだ。だって、普段からお母さんのことをちゃんと好いているのが伝わってくる。絶対、絶対にそんなことはないはずだ。
それなのに、心臓がばくばくと嫌な音を立てている。大丈夫だと、自分に言い聞かせた。
「疑いたいわけじゃない!いつもはちゃんと話してくれるのに、今回はそうじゃなかったから不安になるのも当然でしょう」
「お前が不安になるようなことはなにもしてない。ただ会社の人たちと飲みに行ってただけだ」
「でも、だったらなんで……」
「ちがうって言ってるだろ! なんで信じてくれないんだ?」
「信じてるわよ!信じてるからこそ……」
お母さんの声色がだんだん弱くなっていく。
今日は早く、家を出なくちゃ。これ以上ここにいちゃいけない。私が聞いていい内容じゃない。
キッチンに置いてあるお弁当箱を取りに、私はそっとリビングに足を踏み入れる。二人に見つからないように、ゆっくりと。
そのときだった。お母さんが私の方を振り向いた。それを見て、お父さんも私の方を振り返る。
しまった、と思ったときにはもう遅くて、二人の顔がだんだんと焦りのようなものに変わっていく。見せてはいけないものを見せてしまった、とでもいうような。
「……千鶴」
「……っ、な、なに?」
「そこにお弁当箱置いてあるから」
「……すまんな」
空気がひやりとするのを感じた。言葉がうまく出てこなくて、なにも言えないままお弁当袋を手に取る。お母さんとお父さんの顔はなるべく見ないように、そっとうつむいた。
「……行ってきます」
小さくそれだけ口にして、私は足早にリビングを後にした。その足で、玄関の戸も開けて家を出る。
必然と、学校へ向かう足取りが早くなった。朝ご飯を食べていないことに気が付いたのは、学校に着いてからのことだった。
