君の生きる理由になりたかった



「はあっ?また彼氏と別れたの?」

「しーっ!ちょっと梨紗、声大きい!」
 

十二月も中旬に差し掛かった今日、お弁当を食べている最中に、実来が彼氏と別れたことを報告してきた。結局、今回も早かったのか。多分、三か月とちょっとくらい。
 
梨紗はありえない、という顔で実来を見つめる。


「今回の彼氏は優しいから大丈夫ー、とか言ってたじゃん」

「そう! 優しかった!優しかったんだけどさ!」

「はいはい、なに?」

「ちょっと、真面目に聞いてよね!」
 頬をふくらませながら、実来が少し大きな声を出す。
 
……始まった? いつものあの、彼氏と別れたあとの愚痴。


「なんか、私がデートに何回か遅刻しただけでさ、もう一緒に出かけたくないとか言われて。時間に厳しい人だったなー」

「実来がルーズすぎるんじゃなくて?」
 

そんなことないし、と実来は口を尖らせた。
 
……何回かって、一体何回だったんだろう。梨紗いわく、実来と遊びに行くと彼女は必ずと言っていいほど遅刻してくるらしい。十分程度で済めばまだいい方で、ひどいときは一時間近くだという。
 
彼氏さんも、ずっと目をつむってきた結果、爆発してしまっただけなんじゃないかとも思ってしまう。もちろん、絶対に口にはしない。


「……彼氏がかわいそうだよ実来」

「あーっ、梨紗はあいつの味方するわけ!?」

「……始まった」
 

実来は乱暴におかずをつまみ、口の中に放り込む。それを呆れたように梨紗が見つめていた。
 
そして、私はそれをどうしたらいいか分からないまま、傍観しているばかりだ。


「だってありえなくない!?それだけじゃないんだよ、全部私ばっかりだった!デートのご飯代は一円単位で割り勘だし、私のことだってちっとも褒めてくれないんだもん。今になってまたムカついてきた」

「一円単位は面倒くさいかもしれないけど、割り勘は普通じゃないの?」

「そりゃね、基本的に割り勘なら許すけど、たまには奢ってほしいじゃん。それがまったくなかったんだよ?」

「……実来もなかなか面倒くさいな」

「なんか言った?」

「なんでもない」
 

実来は、よくも悪くも素直な性格だ。嬉しいことがあればそれを前面に出すし、怒ったときもそうだ。人のいいところが見えたときとか、悪いところが見えたときだってそう。
 
実来の怒りがだんだんエスカレートしていく。それをハラハラした気持ちのまま、なにもできずに二人を交互に見つめた。


「はいはい、で、どっちが振ったわけ?」

「なに言ってんの、そんなの私に決まってるじゃん」
 

でもさあ、と実来は続ける。


「私が別れようって言ったら、あいつなんて言ったと思う?『僕はもうずっと前から別れたかった』だって!ずっと前っていつから?そのときに言ってくれたらよかったのに!」

「言われたら言われたで、実来また怒るでしょ」

「それはそうじゃん!」

「どっちにしろ怒るんだったら、この結果が一番よかったんじゃないの?」

「うっ、でも……」
 

いよいよ反論できなくなったのか、実来は悔しそうに顔を歪めて、大きくため息をついた。
 
私も、梨紗の言い分はもっともだと思う。むしろ別れたのがもっと前だったなら、実来はまだ彼のことが好きだっただろうし、余計に爆発していたんじゃないかなって。


「じゃあ、実来はクリぼっちだね」

「はあっ!?バカにしないでよ、今年は梨紗たちと過ごすし。もう計画立ててるんでしょ?」

「えー、人数調整しなきゃじゃん。もう既に今の人数で進めてるんだけど」

「大丈夫大丈夫、その辺は私がやるからさ!ね、私も行っていいでしょ?」

「そう言ってやってくれたことないくせに」
 

どんな計画が立てられているんだろう、と密かに気になってしまう。
 
私は誘われてないな。仮に誘われたとしてもやんわり断っているだろうに、そんなことを思ってしまう自分にため息をつく。そのくせ、そこに当たり前のように私がいないことに寂しさを感じるのだから、本当に面倒くさい。


「千鶴は?」

「……えっ?」

「なんかクリスマスの予定ある?」
 

まさか、と梨紗の言葉に期待が胸に滲む。おそるおそる、小さく首を横に振った。


「ふーん。私たちはね、私の家にみんなのこと呼んでパーティーしようってなってるんだよね。もう楽しみすぎる」

「あっ……」
 

……それもそのはず、か。どうして誘われるかもなんて、期待しちゃったんだろう。
 
みんな、ってだれ?多分、実来と梨紗と仲良くしている明るい人たち。私とは程遠い人たち。
 
私がその輪に入ることはできないって、分かっていたはずなのに。


「ねえ、もちろんそこに私もいるよね?」

「分かった分かった。うるさいなー、しょうがないなー」

「ちょっと、あしらわないでよ」
 

なんだか急に、二人が遠くの世界の人のように感じられた。