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「でもって、解散です」
「はい?」
恋愛ソングって一体何なのだろう。
流行りに流された歌詞とメロディははたして魂がこもっているのだろうか。
恋愛ソングなんて、寄り添ったフリして有名になりたいという自己顕示欲を振り乱しているだけにすぎない。
私は、恋愛ソングがどうにも浅はかに思えて仕方がない。
「言われた通り、恋愛ソング作ってきたでしょ」
「あのなぁ、殺すとか血みどろとか、DEATH(死)とか、そんな言葉連ねてデスボイスで歌うのは、恋愛ソングじゃない」
「なぁ」と私の正面に立っているエレキギターを抱えた上野という男が周りのメンバー2人と目を合わせた。
周りも数回頷いたところで、ああそうか、ここにはもう志を共にする仲間はいないのだと悟る。
だから、解散。て、納得できるわけ。
「そ、そもそも、私たちはヘヴィメタ、いや、もっと過激さをもとめてデスメタルをやりたいっていうバンドでしょ?世の中の不平不満をぶちまけようって、そういう信念じゃん。
なに、恋愛ソングって、どうしちゃったわけ?」
捲し立てるようにそう言えば、上野くんは困ったようにため息をついた。そして欲望を隠すことなく言葉を放つ。
「…バズりたい」
「はい?」
「俺たち、高校生だよ?高校生にしか作れない『青春ラブソング』を奏でたい。そんで有名になりたい、バズりたい、動画で踊ってほしい、モテたい」
「…おのれの欲望だだもれじゃん」
私たちは、所謂学生バンドである。通っている高校は各自違えど、同じ『ヘヴィメタ好き』で集まったメンバーで、私はボーカル、そしてギターの上野くん、ベースの佐野くん、ドラムの渡邊くんで構成されている。
「上野くんが勝手にそう言ってるだけで、佐野くんと渡邉くんはどうなの?」
「…ピュアな恋愛ソングでバズりたい」
「佐野くん…」
「俺も」
「渡邉くんまで…」
そろいもそろって。上野くんの手におさまっている私なりの恋愛ソングのバンドスコアは表に出ることはないのだろう、怒りのままにそれを奪い取った。
すると上野くんは諦めたように薄情な笑みを浮かべる。
「春田」
「なに」
「方向性の違いで、解散。はい、解散」
「待って待って待って」
上野くんの言葉で、その他2人も静かに納得したように私に背を向けたのを慌てて止める。
せっかくできた仲間がこんな容易く解散していいものなのだろうか。内気で何をするにも臆病な私がデスボイスで感情をぶちまけられる貴重な居場所が、こんなに簡単に。
「つ、作ってくればいいんでしょ、青春恋愛ソング!」
上野くんの足が止まった。そして、「え?」と意外そうな笑みを浮かべた。その目が言っている、「お前が?青春恋愛ソング?無理だろ」と。
ここで引き下がるのはロックじゃない。
「血とか、殺すとか、DEATHとか、そういう歌詞なしだよ?」
「うん」
「デスボイスもなしだよ?」
「う、ん」
「春田、青春とか恋愛とか、そういうの分かんの?」
上野くんの声色に心配が上乗せされていく。
まるで言葉を知らない子供を諭すようなそんな言い方だった。
こ、これは、なめられている。
私が高校生活でその類に無縁なことが、完全にバレている。
悔しさでぎゅっと拳を握った。
上等、やってやるんだから。
「来週には作ってくるから、ドストレート青春恋愛ソング」



