どうやら青と春がケンカしているらしい




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「青田くん、残念だけどこれは恋愛小説じゃないよ」

恋愛小説って一体何なのだろう。

単純に人が人を好きになって結ばれる。誰と誰がどうなるかなんて冒頭の数行を読んだらわかるそんな物語が、俺はなんとも浅はかに思えて仕方ない。

なのに、俺は『恋愛小説』を書いている。いや、書かされている。

「満原さん」

「なんだい、青田くん」

「一応、こいつらキスしてますよ」

「青田くん、これはキスではなく人工呼吸。
しかもなんで恋愛小説で毒物とか包丁出てきて彼女殺害されてんの?」

「ちょっとしたスパイスあった方が盛り上がるかなって」

「スパイスも何も死んじゃったらそれまでだよね?残された彼氏はどうすんの」

「復讐に燃えて事件の真相解明を目指します」

「青田くん、言ったよね、今回は誰も殺さない、小難しいトリックをかまさない、ミステリーにせず、ど真ん中の恋愛小説を書いてほしいって」

ーーーーど真ん中の恋愛小説。
そんなの俺には無理な話だ。だが、無理だとははっきり言えない、言いたくない物書きとしてのプライド。
くっと言葉を詰まらせた俺に、何かを察した担当編集の満原さんが苦笑いを浮かべた。
これは、俺に対しての諦めだろう。

「まあ、青田くんのミステリー小説は出版社の売り上げの要になってるのは確かだよ」

「…ありがとうございます」

「だけどせっかくなら高校生作家の肩書きを利用して、青田くんが書く『青春キラキラ恋愛小説』も読者は読んでみたいんじゃないかって、編集長がうるさくてさ」

「…青春、キラキラ、恋愛小説」

ナンダソレ。
皆目見当もつかない言葉が並べられ、頭の中で蠢く。
青春、キラキラ、恋愛。すべてが自分とは真逆の位置に存在している。
そんな真逆の位置に存在している俺が書いた渾身の恋愛小説が自分の手元に返ってきた。
この物語が表に出ることは今後ないんだ。ごめんな。と、原稿の束に心の中で謝罪した。
俺がど真ん中の恋愛小説が書けないばかりに。

「青田くんは、今現役高校生なんだから青春なんて観察し放題でしょ、それに自分が経験することだってできる」

「…青春って、なんですか」

「思い浮かぶのはやっぱりピュアな恋だよね、あの時にしか味わえない時間っていうかさ」

「満原さんにもあったんですか?そういう時代」

「もう、うん十年前の話だけどね、淡い思い出だよ、隣の席になった女の子がいて、当時は交換日記なんてしてさ、そこに彼女が」

「長くなりそうなんで大丈夫です。失礼します」

「きいといて?」

不服そうな顔をした満原さんに俺は軽く頭を下げて立ち上がる。もう2度と外に持ち出すことのないお蔵入りの原稿を鞄の中に無造作につっこむ。

「青田くん、恋愛小説諦める?
僕は全然いいよ、ミステリー書いてきても、面白いのは確定だから。ただ」

「…ただ?」

「無理しなくていいけど、青田くんが『青春』を知れば、もっと物語は面白くなるんじゃないかなと思うよ」

試すような笑みを浮かべた満原さん。そして俺の性格を十分に理解しているのだろう、挑発の声色がそっと上乗せされる。

「青田くんには、難しいかな『青春キラキラ恋愛小説』は」

難しい、そりゃあ難しい。俺の高校生活は『青春』とはかけ離れている。恋愛や友達?そんなもの必要ないと思っていたからだ。なんなら今でも思っている。

ーーしかし、だ。
そもそも、そんなの経験しなくても書けるんじゃないのか。
経験しないと書けないなんて理屈は、ミステリー作家には通用しない。俺は人を殺さずとも今まで面白いものを書いてきたんだ。

反射的に俺は口を開いた。上等だ、やってやる。


「来週には持ってきますよ、青春キラキラ恋愛小説」