君の理想の僕と普通の僕

「じゃ、女装チアガールのメンバーは、多田、高田、相澤、菅野、吉野の5人で決定でーす!」
 教室に響く宣告。
 クラスの一軍であり、体育祭実行委員である渋谷が高らかに告げたのは、公開処刑の犠牲者だ。
 五月下旬に行われる体育祭の応援合戦。
 その応援合戦も総合得点に加算されるため、各クラスは毎年力を入れている。
 僕としては、別に優勝賞品に焼肉がつくわけでもあるまいし、何をそんなに……と思ってしまうのだけど。
 お祭り好きのガチ勢は一定数いるわけで。
 さらに僕のクラスは一軍陽キャの割合がうんと高かった。
 その結果、話題性と面白さが優先され、女装チアガールの案が採用されてしまったのだ。
 その中に、もれなく僕も敦も入ってしまっている。
 選ばれた5人、全員が平凡男子だ。
 そりゃそうだよね……。
 学校中の人が見る中で女装なんて誰もやりたがるはずもないし。
 平凡で大人しく従いそうな僕たちが選ばれてしまうのは必然なわけで……。
 女装すれば競技には出なくていいよと、まるで「ラッキーだろ?」と言わんばかりの説得もされたけど、そういう問題じゃない。
 教室内を見渡すと、選ばれた5人全員が項垂れてしょんぼりしている。
 ただ、たぶんだけど、僕と敦がしょんぼりしている理由と他3人がしょんぼりしている理由は違うはず。
 他の3人は人前で女装なんて恥ずかしい、やりたくないのしょんぼり。
 でも僕と敦は……、
 ——人前で低クオリティの女装なんて嫌だ……‼︎
 のしょんぼりだ。
 その証拠に、隣の席の敦が顔を渋くして口パクで「無理……!」と言っている。
 わかる……!わかるよ、敦!
 こっちは3年もかけて技術を磨いてきたのに、いきなり女装初期のようなモンスターを召喚しなきゃいけないなんて地獄だ。
 メイクもせず、ただウィッグを被って、チアガールの衣装を着るだけ。
 想像しただけで辛すぎる。
 どうせやるなら完璧な女装で挑みたい……!
 でも、僕たちの趣味を公にしたくない……。
 その葛藤が苦しい……。
 僕と敦はふたり同時にため息をついた。


 ホームルームを終えると、僕と敦はいつものカフェに猛ダッシュ。
 僕はアイスティー、敦はアイスカフェラテを受け取り席に着くと、さっそく本題に入った。
 今日の議題はもちろん、さっきのあれだ。
「「女装チアガール、どうする……?」」
 これに尽きる。
「すっぴんにウィッグと衣装は無理だって……!」
 僕がテーブルに両拳を押し付けて嘆くと、敦も激しく同意してくれる。
「本当にそう!絶対にメイクはしたい……!」
「でも僕たちの趣味もバレたくない……!」
「でも低クオリティは耐えられない!」
「そう、無理!」
「でも、じゃあどうすればって話なわけで……」
「どうにか策を考えないと……。僕たちに待つのは、地獄絵図一択……」
「悲惨……悲惨だ……」
 ふたりで頭を抱えて唸る。
 どうにか趣味がバレずに完璧な女装で挑む方法はないのかな……。
 完璧な女装に対して、怪しまれない完璧な理由を考えないと……。
 とりあえず、思いついたものから提案してみよう。
「美容院でメイクしてもらったと説明する……とか?」
「うーん……アリだけど、そんなお金かけるほどガチなんだーと思われて、それはそれで引かれそう」
「……たしかに」
「敦はなんか案ある……?」
「そうだな〜……………………」
 敦は言葉を途切らせると、そのまま考え込んでしまった。
 アイスティーを飲みながら待ってみること数分。
 ようやく、敦が「あ」と呟いて顔を上げた。
「あ?」
「思いついた……!たぶんこれならいけるかも」
「え⁉︎なに、どんなの?」
「その前に。体育祭前日、雄太郎うちに泊まれる?」
「え……お泊まり⁉︎」
 何そのハッピーイベント⁉︎
 え、体育祭で地獄を見る前に天国に行けるの?僕?
「あ……敦のお家が大丈夫なら、僕は大丈夫……だけど?」
 嬉しさと動揺で、しどろもどろな返事になってしまう。
 でも、敦はそんな僕の態度の変化に怪しむこともなかった。
「なら決まり!メイク道具一式と顔隠す用の帽子とか持ってきてね」
「わかったよ。けど、結局なんて理由にするの?」
 訊くと、敦は得意げに鼻を鳴らした。
「それはね——」
 声を潜めて告げられた内容に、僕は眉根を寄せた。
「それ……本当に大丈夫?」
「大丈夫だって!当日は僕から説明するから、任せて!」
 自信満々な根拠はどこにあるんだろう……?
 でも、かといってそれよりいい代案も浮かばない。
 少しの心配を胸に僕は敦の案に頷く他なかった。