千年先も、この日々を

(どうしよう……)

 人一人いなくなった藤棚の下で、采華はぼんやりと立ち尽くしていた。ざっと見た程度ではこの異常に対する解決の糸口も掴めず、ひらはらと風に柔らかく揺れる花を長寝るしか出来なかったのだ。
 それでも一つだけ、一柱の神である采華の視点として、違和感を持った点があり。

(喜んでる……?)

 神社という神聖な場所で、千年間も神と人々に愛されてきたこの藤棚には、微弱ながら意思が芽生えている。と言っても、感情の起伏がなんとなくわかるというくらいの微弱さでしかないのだが。それでも喜んでいるという意思が垣間見えるということは、少なくともこれは彼らにとって望まれた出来事である、ということで。一つの重要そうな手がかりでありながら、その事実が一層謎を深めていたのだった。

 刹那。

 花が、歓喜を示すかのように大きく揺れた。風なんて吹いていないのに花弁が散りだし、采華の周りを舞い踊る。まるで祝福の紙吹雪のように。

「な、なに!?」

 状況が理解出来ず、その光景をただ見ていることしかできない。
 しかしその直後、彼女の心の臓までもを縛りつけるような、それでいて地獄の底から掬い上げる一筋の光ような、そんな声が聞こえた。

「……ただいま。僕の華(はな)」

 華。
 采華のことをそう呼ぶ人間は、采華の知る限り、たった一人しかいない。

「藤、也」

 青みがかった白銀の髪に、此方を引き込むような紫水晶(アメジスト)の瞳。その瞳は、まるで愛おしいものを見つめるかのように細められている。神である采華でも桁違いだと思うくらいの霊力は、藤の花弁のような姿をなして彼に懐くように靡く。

 心の奥底では、わかっていたのだ。これが彼による現象だということを。
 藤の花弁は本物ではない。限りなく似通った陽炎のようなもの。きっと彼の霊力に呼応してこの形を取り、それがこの藤棚に引き寄せられ、まるで咲いたように見せかけていたのだろう。質の良い霊力は、まるで本物のように見えるということも、彼にはそれ程の力があるということも、采華は知っている。

 それでも、そんなことはあり得ないと思っていたから、隠していたのに。
 だって、だって。

「貴方は、だれ……?」

 彼は……采華と共に国を興した建国の英雄、“藤也”は。


 千年以上前に寿命で死んだ、れっきとした人間なのだから。