よろづーこれは、かつて人々によって穢され、見捨てられた、もうひとつの世界のお話ー

 と、慌ただしい足音が響いてきて、部屋の襖が勢いよく開かれる。

「小雨ー!」

 かずみはそう叫ぶや否や、部屋に飛び込んできた。
 その瞬間小雨の身体はスウッと軽くなり、涙もピタリと止まった。
 かずみに続いて来華と影利も入って来る。
 かずみは瞳が潤んでいる小雨を見て青ざめ、慌てて彼女の傍らにしゃがみ込んだ。

「大丈夫か? なにがあった?」

 小雨は首を横に振って涙を拭った。

「こ、これアタシが泣いたんじゃない」

 影利も、来華と小雨のそばにしゃがみ込みながら、問いかけた。

「どういうことだ?」

 小雨はなんとか落ち着いて、今あったことを説明した。
 来華もかずみと同じくらい青ざめて、つっかえながら言葉を絞り出す。

「な、なにそれ……それってまるで……」

 影利はその言葉を次いで結論を述べた。

「霊だな。おそらくこの宿には霊がいるんだろう」

「まじかよ! 妖怪なら実体があるけど、霊なんてよくわからないし、姿だってあやふやだし……!」

 かずみは寒さと恐怖で震えながら項垂れた。
 来華も縮こまりながら何度もうなずく。
 
 ちなみにアヤカシとは、妖怪や霊などを総称したものである。
 
 かずみはふと思い出したように影利に言った。

「そういやぁ、海刃も独りじゃないか?」