よろづーこれは、かつて人々によって穢され、見捨てられた、もうひとつの世界のお話ー

 かずみはふと目が覚めた。

(厠行きたい……)

 両隣りに寝ている小雨と来華を見回す。

(やだなぁ、この宿ってなんか気味悪いし、こんな夜中に独りで厠なんて……。でも起こしちゃ悪いし……。ていうか、こんな歳になってまで独りで厠に行けないなんて、情けねーだろ!)

 かずみはなんとか自分を奮い立たせ、布団から這い出ると薄暗い廊下に出た。

「……寒っ」

 怖さを紛らわすために、わざと声に出してつぶやきながら歩き出す。

 しばらく行くと、ふと前の曲がり角の方から足音が聞こえてきた。

(えっ! 誰だよぉ)

 かずみは必死に心を落ち着かせながら進んだ。
 足音はすぐそばだ。
 ちょうど角に差し掛かったとき——

「うわぁあああ!」

 暗がりから現れた大きな影に、思わず絶叫する。
 しかし、その影をちゃんと見直したかずみはきょとんとした。

「あ! か、影利さん?」

 影利はかずみの叫び声に驚いたように目を見開いていたが、彼女とわかると、いつもの落ち着いた表情に戻った。

「こんな時間になにしてるんだ?」

「えっ、あっ、そういえば厠に行くところだった!」

 かずみはあまりに驚いたせいで、自分が厠に行きたいということさえ忘れていた。

「影利さんこそ、なんで?」

「いや、俺は——」

 影利が口を開きかけたとき、再び彼の後ろから足音が聞こえてきた。