よろづーこれは、かつて人々によって穢され、見捨てられた、もうひとつの世界のお話ー

 光我が不意に口を開く。

「この世界にもうひとつの世界があるだあ? そんなこと、本当にあんのか……?」

「さあ……どうだろうな……にわかには信じられねぇが……」

 よろずはそう答えると、力なく苦笑いをした。

「にしても、『よろず(づ)』って名は、どうもろくな意味じゃねぇみてぇだな……」

「…………」

 光我はそんなよろずを黙って見つめると、不意にポーンと頭を叩いた。

「なっ、なにすんだよ!」

 よろずは書物を開いたまま、光我に食ってかかる。
 しかし、彼はいつものようによろずを揶揄おうとはせず、真顔でこう言った。

「つまらねぇこと気にしてんじゃねぇよ。おめぇのは違った意味かもしんねぇだろ。お前はお前なんだよ」

 よろずはきょとんとして光我を見ていたが、ニッと笑った。

「光我……おめぇ、最初はすげぇ嫌な奴だと思ったけどよ、意外といい奴だよな」

 光我はみるみるうちに顔を赤らめて、そっぽを向く。

「なに言ってやがんだよ!」

 よろずはそんな彼を嬉しそうに、ニヤニヤとしながら見ていた。



 二人はその日は再び天無城で夜を明かし、次の日の朝に出発した。

 目当ての書物を手に入れ、相変わらず吹き荒れる砂嵐の中、二人は天無城の敷地内から外へ出る。
 よろずは大入道が崩してしまった城を見上げた。
 そしてふと、眉を潜めた。

(あれ……? なんか、少し元に戻ってないか……?)

 そんなよろずを他所に、光我が歩き出しながら声をかける。

「オイ! 行くぞチ(・)ビ(・)!」

 よろずはその言葉に、今浮かんだ疑問が吹っ飛んでムッと顔をしかめ、光我の背に体当たりをした。

「ってめぇは、ほんっと腹立つ奴だな!」

 光我は背中をさすりながら、そう怒鳴る彼を見てニヤッと笑った。

「へっ、本当のこと言っただけじゃねぇか!」

「なんだとぉ?」

 こうして二人は相変わらず喧嘩をしながら、黒竜山のふもとへと長い道のりを歩き出した。

 しかし今の二人は、最初の頃とは違い、まるでどこか、本当にじゃれ合っているかのようだった……。