よろづーこれは、かつて人々によって穢され、見捨てられた、もうひとつの世界のお話ー



 ——『雨が降っても会いに行く……』



 小雨は再び暗い中でそっと目を開けた。

 そしてゆっくりと身体を起こすと、寝台に座ったまま、窓を通して明るい満月の浮かぶ夜空を見上げた。

 その澄んだ瞳には、強い決意が表れていた。



 かずみと海刃もまた、別の窓から満月を見上げていた。

「アイツ、まだ小雨のこと想ってるな……」

 かずみが静かにつぶやいた。

「あぁ……。アイツ、わざわざ小雨を化け物から離れた場所に連れて行ってたからな……そんで、おれたちが駆けつけて来たのを察して、その場から離れた……」

 海刃はあの騒ぎの中、小雨を見つけ出したときのことを思い出していた。
 かずみは夜空を見上げたまま、はっきりとした声でこう言った。

「アイツには、絶対なにかわ(・)け(・)があるんだ」

 海刃もかずみに答えて、自分に言い聞かせるようにはっきりと言った。

「そうだ、絶対連れ戻すぞ」

 かずみはグッとその言葉を噛みしめた。

(……もう、小雨が泣いてるのを、黙って見てるだけなんて、しない)



 影利は窓枠に腰かけ、独り物思いにふけっていた。

 小雨を見失った後、あの騒ぎを聞きつけ、あの場所へ駆けつけた……。
 
 そのとき確かに見た。

 雨の中、暴れ狂う化け物と、崩れ落ちる岩山の向こうに、確かにアイツはいた。
 驚きと戸惑いの表情を浮かべ、アイツは——光我の口はこう動いた。


 
『兄ちゃん……』


 
「影利……」

 誰かに呼ばれ、影利は声のした方へ顔を向けた。
 そこには来華が立っていた。
 来華はそっと問いかけた。

「……弟がいたの?」

「……ああ」

 影利はつぶやくように答えた。
 そして来華の瞳をじっと見つめた。

「お前もだろう?」

 来華は影利の方へ歩み寄りながら答えた。

「あぁ、あたしの殺したい男も確かにいた」

 来華は影利の傍らに立った。
 影利は静かにつぶやいた。

「……近づいたな」

 二人は満月の浮かぶ夜空を見上げた。