よろづーこれは、かつて人々によって穢され、見捨てられた、もうひとつの世界のお話ー

 よろずが行ってしまってから三日が経った。

 アタシはこのままではいけないと、自分を奮い立たせた。
 
 まず身の回りの物を質屋に売りつけ、旅費を作った。
 そして次の日の朝早く、アタシは独り家を出た。
 近所のおばさんには置手紙を書いた。
 
 一度だけあの海が見渡せる崖へ行った。
 旅へ出ることは怖くはなかった。
 よろずが戻って来るなら、他になにを失ってもいいとさえ思っていた。


 
 しかし、その日の夕暮れ頃。

 アタシは里から離れた森の中までやって来ていた。
 長い間歩き続けて、疲れが出始めていた。

 ——そのとき

 ——ガサッ

「!」

 アタシは草の擦れる音に、ビクッとして立ち止まった。

 ——ガサガサッ

「わっ!」

 茂みの中から、赤い毛並みの狼が一匹姿を現した。
 アタシは素早く手甲鉤を構えた。

「クク……ウマソウナ小娘ダ……」

「!」

 アタシははっとして、狼に目を凝らした。

(しゃべれるってことは、アヤカシ——?)

 狼は勢いよく飛びかかってきた。
 アタシは素早く手甲鉤で狼を切り裂いた。
 恐ろしい悲鳴が響き、狼はどさりとその場へ倒れた。
 アタシは慌てて懐から札を取り出し、血を染み込ませた。
 
 依頼が出ていないその辺のアヤカシの討伐をしても、そこまで報酬はよくないけど、少しでも、旅費の足しにしなければと考えたんだ。
 アヤカシの亡骸は少しすると、風に溶けるように消えていった。

 アタシはほっとしてまた歩き出した。
 でも、数歩も歩かないうちに、再び周りの茂みから何匹もの赤い毛並みの狼たちが現れたのだ。

「……! うそっ、どうし——」