よろづーこれは、かつて人々によって穢され、見捨てられた、もうひとつの世界のお話ー

 よろずはそっとアタシの方へ手を伸ばしてきた。
 アタシはなんだか緊張してじっと固まった。
 よろずはそっとアタシの髪を撫でた。
 その表情はとても苦しそうで複雑だった。
 不意に、よろずがアタシの方へずいっと身体を乗り出した。
 
「!」
 
「…………」

 アタシは驚いて身体を強張らせたけど、よろずは特になにかをするわけでもなく、アタシを至近距離でじっと見つめただけだった。

「……? あ、あの……よろず?」

「ああ! 悪ぃ……なんでも、ねぇ……」

 よろずはそう言って、慌てて視線を逸らすと立ち上がった。

「そろそろ、帰るわ」

「ま、待って! よろず、明日も、来てくれる?」

 アタシも慌てて立ち上がって、よろずの着物の裾を掴んだ。

「…………」

 よろずは一瞬押し黙ると、作り笑いを浮かべて答えた。

「ああ、またな!」

 そして、アタシの手からそっと着物を引っ張って離すと、勢いよく洞窟の入り口から飛び出して、走って行ってしまった。

「よろず…………」

 アタシはよろずの引きつった作り笑いを見て、不安でいっぱいになり、しばらく突っ立って、黒々とした海を見つめていた。


 
 黒々とした海から、淀んだ空へ視線を上げる。

 それと同時に、外では雨が降り出した。
 アタシはしばらく、雨の音をぼんやりと聞いていた。