よろづーこれは、かつて人々によって穢され、見捨てられた、もうひとつの世界のお話ー

「あの日、おめぇが雨を降らせてたから、オレとお前は今こうして話してるんじゃねぇのかよ。おめぇの雨がオレたちを逢わせてくれたんだろ」

 アタシははっとして声が出なかった。

「…………っ」

 よろずはゆっくりとアタシの隣に立って、海を眺めた。
 夕陽で海は赤かった。

「オレは、オレのしたいようにしてるだけだ。おめぇがいくら嫌がっても、オレはおめぇに会いに行くからな。雨が降っても会いに行く……」

「よろず……」

 アタシは茫然とよろずを見つめていた。

「っあ! それはそうと……」

 よろずは不意に着物の懐をまさぐりだした。
 
「ほら、コレ、やるよ」

 よろずは無造作に、アタシの目の前に手を突き出した。
 そこには、小さな白い綺麗な貝殻が一つ乗っかっていた。

「えっ! えっ?」

「ほらっ」

 よろずは困惑するアタシの手の平に、貝殻をヒョイと乗せた。
 そして得意気に言った。

「どうだ? 綺麗だろ? この海岸で拾ったんだ」

 アタシは視界がジワリとかすむのを感じた。

「……っありが……よろ……っ」

 アタシは喉が詰まって、上手くしゃべれなかった。
 そんなアタシを見て、よろずは海から吹く風を受け、夕陽で赤く染まりながら優しく微笑んだ。

 アタシはこの貝殻も、よろずの笑顔も、この夕陽もなによりも一番綺麗に思えた。

 そして、よろずの笑顔を見て、アタシは心からこう感じた。

(あぁ……アタシ、幸せだ……)