よろづーこれは、かつて人々によって穢され、見捨てられた、もうひとつの世界のお話ー

 ——次の日の朝。

「……小雨」

 よろずはぼんやりと目を開け、アタシを呼んだ。

「よろず! 良かった……目覚めて……」

 アタシはよろずの顔を覗き込んで安心した。
 よろずはゆっくりと上半身を起こした。

「だめだよ! まだ寝てなくちゃ! お吸い物とか作ったから持ってくるね」

 アタシがそう言って背を向けたとき、よろずはアタシの着物の裾をグッと掴んだ。

「ど、どうしたの?」

 アタシはなにを聞かれるかわかるようで、よろずに背を向けたまま立ち止まった。

 昨日から雨はやまない。

「お前……雨女って本当だったんだな……?」

 よろずは静かに、アタシにそう問いかけた。

「…………」

 アタシは黙ったまま固まった。

「……オイ、小雨?」

 よろずはアタシの着物の裾を掴んだまま、声をかけた。

「……っご、ごめんね、よろず……っごめん!」

 アタシは耐え切れなくなって、そう叫ぶと、よろずの手を払い除け、雨の降りしきる外へと飛び出した。

「小雨!」

 よろずはアタシを追おうとしたけど、傷の痛みに呻き声を上げてうずくまった。
 それでもアタシは振り返りもせず、めちゃくちゃに走り続けた。

 雨に濡れ、跳ねた泥にまみれながら、走って走って走り続けた。

 気がつくと、初めてよろずと出逢った、海を見渡せる崖に辿り着いていた。
 アタシはその崖の上に、がっくりと座り込んだ。
 そして誰もいないのをいいことに、アタシは独り、声を上げて泣きじゃくった……。