よろづーこれは、かつて人々によって穢され、見捨てられた、もうひとつの世界のお話ー

「まぁ、ちょうどいい。むしゃくしゃしてたところだ。おめぇらを斬らせてもらおうか」

 男は邪悪な笑みを浮かべて、腰の刀をスラリと抜いた。

「小雨、下がってろ」

「えっ?」

 よろずは自分には長過ぎる刀をサッと抜いた。
 それとほぼ同時に、男はよろずに斬りかかってきた。


 
 ——ギィイン


 
 よろずはなんとか、それを刀で受け止めた。

「よろず!」

 アタシはそう叫びながらも、見守ることしかできなかった。

「へ、ガキのくせにやるじゃねぇか。それでこそ斬り甲斐があるってもんだ!」

 男は声を張り上げて刀にグッと力を込めた。
 よろずは耐え切れず、男の刀から逃れるためにザッと後ろへ引いた。
 男は間髪入れずによろずに斬りかかった。

 激しい斬り合いが続いた。
 よろずは長過ぎるはずの刀を、驚くほど器用に使いこなしていた。
 しかしいくら刀を使いこなせても、相手は大人の男。
 どう見ても不利だ。

 よろずの刀が僅かに男の腕をかすめた。
 男の腕からじわりと血が染み出た。

「——っ! こんのクソガキがぁ!」

 男はそれにいきりたって、激しく刀を振り回した。
 その刀がよろずの横腹を斬りつけた。

「っ!」

 よろずが痛みに怯んだ瞬間、男は彼を思い切り蹴飛ばした。

「よろず!」

 アタシは怖くてどうしようもできずに、悲鳴を上げた。
 よろずは痛みに耐えながら必死に起き上がろうともがいたが、男に足で踏みつけられてしまった。
 男はニヤニヤと笑いながら足を離すと、よろずに刀を突きつけた。
 よろずはそれでも、ギッと男を睨みつけた。
 その目は憎悪に溢れていた。

「フン、気丈なガキだ。さぁ、どっから斬りつけてやろうか……?」

 アタシは震える足をなんとか動かし、男に突進していった。

「やめてぇ!」

 しかし、アタシはまるで小石のように、いとも簡単にその男の足に蹴り飛ばされた。

「——小雨っ! なにしてんだ! さっさと逃げっ——うっ!」

 よろずの叫び声は、男の蹴りによって呻き声に変わった。
 
「うるせぇぞ! そうか、お前もいるんだったな。まぁいい。コイツを目の前で切り刻んだ後、お前をやってやろう」

 そう言いながらニヤニヤと笑っている男に、アタシは堪らなく憎しみを覚えた。

 ——空を黒い雲が覆い出した。
 ゴロゴロと遠くから雷が鳴り出す。