よろづーこれは、かつて人々によって穢され、見捨てられた、もうひとつの世界のお話ー

「あっ、あの、助けてくれてありがとう。それに……アタシ、おばさんたち以外に名前で呼ばれるの初めてで、その、すごく嬉しいからっ……ありがとう……」
 
 顔を真っ赤にしながらモゴモゴとそう言うアタシを、よろずは驚いて見つめていた。
 そして、アタシから目を逸らすと、僅かに頬を赤らめた。
 よろずはアタシに向き直ると、

「助けてやった代わりに、おめぇもオレのこと名前で呼べよ!」

 と必死に照れを隠しながら、不自然にきっぱりとそう言ったのだった。

「う、うん。ところで昨日のお礼に、えっと、ヨモギ餅持ってきたんだけど……」

 アタシも照れを誤魔化すために、話題を変えようと笹でくるんだヨモギ餅を、ずいっとよろずの目の前に差し出した。

「えっ! 本当か? ありがとな! とりあえず座るか?」

「うん!」

 アタシとよろずは海の方を向いて、洞穴の入口に並んで腰かけ、二人でヨモギ餅を食べた。

「うめぇなコレ! こんなうめぇもん生まれて初めてだ!」

 よろずは目を輝かせてそう言った。
 そんな風に喜んでくれるよろずが嬉しくて、アタシもニコニコと彼を見つめた。
 そのときよろずの腰に、彼の背丈にはどう考えても長過ぎる刀が差さっているのを見つけた。

「すごい! 刀使えるの?」

 アタシは思わずその刀を指差した。

「あぁ、まぁな。習ったことなんかねぇから我流だけど……」

 よろずは少し錆びれた刀をそっと撫でた。