よろづーこれは、かつて人々によって穢され、見捨てられた、もうひとつの世界のお話ー

 雨は上がっていた。
 雲の隙間から太陽の光も見え出した。

 少年は立ち上がるとうんと伸びをした。
 そして、アタシの方を向くとこう尋ねた。

「おめぇ、名はなんていうんだ?」

 アタシはぼそりと答えた。

「…………小雨」

 少年はニッと笑ってこう言った。

「そっか! おめぇ暇だったらまたここ来いよ。それと、オレ雨は嫌いじゃねーぞ」

 少年は畳んだ穴開き傘を片手に持って、洞穴の外へと歩き出した。
 アタシは慌てて少年を呼び止めた。

「待って! 名前は?」

 少年はニコッと笑うと、

「よろず!」

 とだけ言い残して、洞穴の外へと大きく飛び出して消えて行った。
 アタシは急いで立ち上がり、洞穴から海岸を走って行く少年を見送った。

「…………よろず」

 アタシは独りそうつぶやき、しばらく洞穴の中に突っ立ってボーっと海を見つめていた。

 それが、よろずとの出逢いだった……。