よろづーこれは、かつて人々によって穢され、見捨てられた、もうひとつの世界のお話ー

 振り返った方と別の方向から、ばしゃばしゃと複数の足音が響いてくる。

「小雨! 大丈夫か?」

 かずみが先頭を切って駆け寄って来た。

「それより、よろずは?」

 小雨は泥だらけで立ち上がりながら、必死に辺りを見渡す。

「今は一旦逃げないと! もうそこら中めちゃくちゃなんだよ! こんな視界な上に、アヤカシが暴れ回ってて危ないし」

 来華は悔しそうに顔を歪ませて、そう言った。

「で、でも——」

「——っ海刃、頼む!」 

 かずみは小雨の声を遮って、隣の海刃に声をかけた。

「わかった!」

 海刃は険しい表情でうなずくと、小雨の小さな身体を軽々と担ぎ上げた。

「嫌だ! 離して! よろずっ——」

 抵抗虚しく、小雨は海刃に担がれてその場を後にする。

「こっちだ!」

 影利の誘導する声がする。

「よろず! よろず! よろず——!」

 小雨は何度も声を張り上げた。
 そのうち、極度の緊張状態と、叫び続けたことによる酸欠で、目の前がくらくらとし始めた。
 意思が、遠退いていく。
 しかし薄れゆく意識の中、小雨は引き寄せられたとき、ある物をはっきりと、その目で見たことを忘れなかった。



 ——そう、よろずの胸元の着物の間から、あの日アタシが『お返し』にあげた巻貝がしっかりと、紐に結ばれて首にかけられているのを……


 
 ——アタシはこの目で見たんだ……。