よろづーこれは、かつて人々によって穢され、見捨てられた、もうひとつの世界のお話ー

 そこには、少し離れた所によろずが立っていた。
 よろずは小雨を見つめると、固い表情のまま口を開いた。

「……おめぇ、なんで来たんだ……」

「なんでって! よろずこそなんで? なんであんな人たちと……」

 小雨は必死に、よろずの方へ身を乗り出すように叫んだ。
 よろずは表情を変えずに答えた。

「おめえには関係ねぇ」

 小雨はまじまじとよろずを見つめた。

(よろずがなに考えてるのか……全然わかんないよ!)

 小雨は涙を必死に堪えた。
 喉が詰まって言葉が出ない。

 よろずはそれでも言葉を続けた。

「とにかく、オレがどこでなにをしようが、オレの勝手だろ。おめぇはさっさと里に帰れ。二度と追って来るな」

 小雨はグッと唇と噛みしめ、やっと声を絞り出した。

「……っよろず、一体……なにがあったの?」

 よろずは目を逸らし、黙っている。

 雷はやんだ。
 でも、雨は激しさを増した。

 小雨が再び口を開こうとしたとき、よろずが彼女に大きく近づいた。

「!」

 小雨が驚いて顔を上げたのと同時に、よろずは彼女の腕を掴んで、グッと力強く自身へ引き寄せた。
 小雨は前のめりに体勢を崩し、彼の背後にできていた水たまりに、ばしゃりと倒れ込んだ。
 泥水が顔にかかり、視界が塞がれる。

「よ、よろっ——」

 小雨が必死に顔の泥を拭って振り返ったときには、既に彼の姿はなかった。