よろづーこれは、かつて人々によって穢され、見捨てられた、もうひとつの世界のお話ー

 風が森を吹き抜けた。
 そして、その森を抜けた山のふもとに佇む、二本の長い紫檀色の襟巻をなびかせた。
 よろずと長身の男は、山のふもとにある、とても小規模な杉野の村の外れに立っていた。
 杉野の村は酷く寂れており、人も数えるほどしか見当たらなかった。
 よろずは左に立っている長身の男を、見上げるようにして声をかけた。
 
「桜在(おうざい)さん……こんな小さな村に、一体なんの用があるってんだ?」
 
 桜在と呼ばれた男は、村を見つめたまま答えた。
 
「今からお前を試す」
 
「試す?」
 
 よろずは首を傾げた。
 桜在は彼を横から見下ろして言った。
 
「……そうだ。この杉野の村は三カ月ほど前に、アヤカシに襲われた。今は確認したところ、村人全員がアヤカシに取り憑かれている。そして既に侵蝕され過ぎているだろう……」
 
「それで、オレをどう試すんだ?」
 
 よろずはさっぱり先が読めずに、眉を寄せて村を見つめ直した。
 今から告げられる、その残酷な試練を知りもせずに……。
 
 桜在は、しばらく黙って村を見つめていた。
 そして、静かにこう告げたのだ。
 
「今からお前に……この村に生きる者全てを、一人残らず消し去ってもらう」
 
「……え?」
 
 よろずはまだ少しの穢れも無いその大きな瞳で、ただ桜在を見上げたのだった……。