よろづーこれは、かつて人々によって穢され、見捨てられた、もうひとつの世界のお話ー

 光我は影利の横に座り込んだまま、彼にしがみついて涙を流していた。

「……でも、結局はオレのしたことで、また兄ちゃんを傷つけちまった……。オレはなんでこんなに兄ちゃんを不幸にするんだ……」

 影利は弱々しい手で、そっと弟の頭を撫でた。

「……そう……か……。ごめんな……。そんな風に……お前を苦しめてたなんてな……」

「違うよ兄ちゃん! オレが、オレのせいで、兄ちゃんを苦しめるのに耐えられなかっただけなんだ! オレの自己満足のせいなんだ……。ごめんな、兄ちゃん……ごめん……っ」

 影利は苦しそうにしながらも、弟を見てそっと優しく微笑む。

「……相変わらず……泣き虫だな……光我……」

 光我はグッと涙を拭って、言葉を絞り出した。

「……っ兄ちゃん……オレは、兄ちゃんがただ、元気でいてくれれば……それで幸せだったんだ……」

 影利は穏やかな微笑みを浮かべたまま、光我の頭を撫でながら、消え入りそうな声でこう言った。

「……俺は……お前の本当の気持ちが聞けただけで……それだけで…………十分だよ……」

 そう言い終わると、影利の手は光我の頭から静かに力なく滑り落ちた。
 光我ははっと顔を上げて、影利の身体を揺さぶる。

「……兄ちゃん?」

 しかし影利の瞳は静かに閉じて、二度と開かれることはなかった……。

「兄ちゃん! ——っ兄ちゃん! ——にぃちゃ……ん……」

 後には、弟が必死に兄を呼ぶ声が、虚しく残されただけだった……。


 
 影利の上に泣き伏せる光我の周りを、不意に不気味な風がヒュンヒュンと渦巻き始める。
 そして、彼自身の身体も、次第に鎌鼬の恐ろしい獣の姿へと変貌をし始めた。 

 これまでになく感情が不安定になり、抑えが効かなくなった光我は、その身体に秘めていたアヤカシに、身体も心も蝕まれ始めたのだ。