よろづーこれは、かつて人々によって穢され、見捨てられた、もうひとつの世界のお話ー

 あの日から数日後。

 オレはあの日以来、だいぶ落ち着きを取り戻していた。

 その夜は雪が降っていて、オレたちは寒さをしのぐために、こっそり牛小屋の中へ忍び込んだ。
 
 寒さに震えながら、オレたちは藁に潜り込んで、二人で寄り添っていた。

「光我、寒くないか?」

 兄ちゃんは寒さに震えるオレを見て、心配そうに声をかけた。
 オレはさらに兄ちゃんに身体を寄せると、微笑んでこう答えた。

「兄ちゃんがいるから、あったかいよ……」

 そして、少し躊躇いがちに再び口を開いた。

「…………あのさ」

「どうした?」

 オレは兄ちゃんに身体を寄せてうずくまったまま、おずおずと尋ねた。

「……兄ちゃんは、母さんと父さんが死んで、寂しくないの?」

 両親が死んでから、いや、それまでにも、オレは兄ちゃんが泣いているところを一度も見たことがなかった。

 兄ちゃんは笑って答えた。

「はは、俺もお前がいるから、大丈夫だよ」

 そしていつものように、オレの頭をくしゃっと撫でた。
 でも、その手はいつもより弱々しくて、消えてしまいそうだった。

「……じゃあ、オレがずっと兄ちゃんのところにいるから、大丈夫だね……」

 兄ちゃんはなにも言わなかった。
 そのとき、兄ちゃんの手が震えていることに気づいた。
 オレはゆっくりと兄ちゃんを見上げた。

 兄ちゃんの目からは静かに、一筋の涙が流れていた。
 オレはそっと、兄ちゃんの手を取って握りしめた。

 それがオレが見た、兄ちゃんの最初で最後の涙だった……。