よろづーこれは、かつて人々によって穢され、見捨てられた、もうひとつの世界のお話ー

 オレたちの家に着くまでにも、誰も生存者はいないようだった。

 オレは家に着くと、兄ちゃんより先に家の中へ駆け込んだ。

「母さん! 父さん!」

 しかしなにも返事はなく、隅の暗がりの方でなにか固いものを砕くような音が不気味に響いてきた。


 
 ——グチャ……ゴキ……——


 
 オレは恐る恐る音の方へと目を凝らした。
 そのとき、兄ちゃんがオレを後ろから強く抱え込んで叫んだ。

「ダメだ! 見るな!」

 しかし、オレは見てしまった。
 元は人間、そしてオレたちの両親であったであろうはずのモ(・)ノ(・)が、今はもう人と判断するのが難しいくらいまでに、グチャグチャに引き裂かれ、そしてそれを貪り、しゃぶっている、口を真っ赤に染めた恐ろしい巨大な鼠の姿をした化け物を……。

「アイツらは『窮鼠(きゅうそ)』という妖怪だ……」

 兄ちゃんが震える声でそう言った瞬間、そいつはこちらへ身体を向けると、血にまみれた口を開けて飛びかかって来たんだ。
 兄ちゃんはオレを後ろへ押し退け、腰に差していた刀でなんとかそいつを斬りつけた。

 窮鼠が恐ろしい金切り声を上げて怯んだ隙に、兄ちゃんは再びオレの手を掴んで外へ飛び出ると、全速力で走り出した。

 村を出るまでの間も、いたるところから恐ろしい窮鼠の顔がオレたちを睨んでいた。
 でも、幸い、奴らは人の肉をしゃぶることに夢中で、追って来ることはなかった。



 村を出ても、オレたちはひたすら歩き続けた。

「うぅ……母さん、父さん……っ」

 オレは兄ちゃんに手を引かれて歩いている間も、ずっと泣いていた。
 衝撃が大き過ぎて、そうしてないとおかしくなりそうだった。

 その日は暗くなっても一晩中、村から逃げるように二人でただひたすら歩き続けた。

 オレは一晩中泣き続けた。
 兄ちゃんは、ずっと黙ってオレの手を引いていた……。