よろづーこれは、かつて人々によって穢され、見捨てられた、もうひとつの世界のお話ー

 影利はなんとか鎖鎌を食い止めた。
 しかし、光我を取り巻く風が、影利の身体を鋭く切り刻む。

「っ!」

 影利は傷だらけになりながら、慌てて風から逃れた。
 思っていたより色んな箇所を切られており、傷は深い。
 切られたときに痛みはないが、傷は深く、それに気づいたときに激しい痛みが襲ってくる。

「目を覚ませ! 光我!」

 影利の必死な叫びは、完全に彼の耳には届いていない。
 光我は容赦なく影利に向かっていく。

「うあ!」

 影利は風につけられた傷の痛みに、呻き声を上げた。
 彼の腕に光我の鎖鎌が巻きつき、影利はそのまま強く引き寄せられる。
 光我は影利の胸座を掴み、冷たく笑った。

「オレなんかをのこのこ追いかけて来るから、こうなんだよ。オレなんか忘れて、一人で幸せに暮らしてりゃあ良かったのによ?」

 しかし影利はしっかりと弟の手首を掴み、その目を見て苦しげに口を開いた。

「お前は——俺の——弟だ……。唯一の家族——なんだ。お前がいないと、意味がない——」

 光我の顔から冷たい笑いが消え、その顔が歪む。
 座朗は笠を僅かに持ち上げて声をかけた。

「どうした……。さっさと殺れ」

 光我はギュッと鎌を握りしめて振り上げた。
 しかし、それを中々振り下ろそうとはしない……。

「できんのか……」

 座朗が追い打ちをかける。
 光我は固く目を閉じ、ついにその鎌を力一杯振り下ろした。


 
「——っ」


 
 しかし、光我の鎌は影利から大きく逸れ、地面に突き刺さっていた。
 光我は影利を掴んでいた手を放した。
 影利は茫然としたまま地面に膝をつく。

「——ほんと、なんで、オレなんかのところに来たんだよぉ!」

 光我は両手で顔を覆うようにして、空に向かってわめいた。
 彼は元の姿に戻っていた。

「……光——」

 影利が弟に呼びかけようとしたとき、再び座朗の声がした。

「やはりお前は甘すぎる」

 その声は、冷酷さ以外なにも感じられない。
 光我が座朗の方へ顔を向けたときには、既に彼が刀を抜いて自分に斬りかかろうとする瞬間だった。